僕と彼の前世

僕は彼を信じていた、彼は僕のたった一人の友人だった、彼はいつもお金に困っていたんだ、僕は彼にたくさんのお金を与えた、すると喜んでくれたから、僕が一生懸命働いたお金を彼に与えていたよ、彼はいつも僕を笑わしてくれた、彼と一緒にいるといつも腹が捻れるくらいに笑っていた、僕に愛する恋人が出来て、彼も喜んでくれた、彼は僕のいない間に僕の恋人を犯した、彼は僕の恋人に誘われたからさと言った、僕は彼を信じた、僕は恋人に暴力を振るうようになった、挙げ句の果てに恋人を殺した、僕は彼の家に行って彼に恋人を殺してしまったんだと言った、彼ならきっとわかってくれると、そう信じていたんだ、恐怖に震える僕の体をきっと彼は強く抱きしめてくれるに違いない、僕の言葉を聞いた彼は僕の頭にピストルを突き付けてこう言った、俺はあの女を心から愛していたんだよ、おまえから金を全部奪っておまえを殺し二人で外国にでも行こうって言っていたんだ、あの女も俺を愛していた、よくも殺してくれたな、許さない、おまえを絶対に許さない、死ね。

寝たきりの女と殺す男

その場所には私以外に四人程いる。一人は知っている人間、知らない中年男、知らない女二人。西洋風の容貌で四十過ぎ程の男が猟銃、短銃を手に持ち現れる。澄ました顔で銃をこちらに向けている。その場は蒼然となる。脅えきっている私に向かって男は、おまえはいいんだよ、と言った。私は少しホッとして男に交渉が出来る望みを持ち男に近付いて行った。半ばまだ脅えの残った私が男に向かい、何故殺さなければならない、と話し掛けると男は私を地面に倒し込みこめかみに猟銃の銃口を突き付けこう言った。おまえは殺されたいようだな、殺される人間というものを味わいたいんだろう、殺してやろうか、ははは。私は今に自分の頭が破裂するだろう恐怖に息も上手く出来なかった。男は私から猟銃を離すと逃げる中年男の方に歩いて行きそれに向かって発砲した。私は恐怖のあまり立ちすくんでいると、私のやや左後ろに走って逃げてきた女に向けて男は発砲し、女の頭は破裂した。私は恐くて振り返ることが出来なかった。男は私以外の人間を全員殺し私の側に座っていた。私は咽び泣きながら、自分の中にある媚のような偽りを認めながら、男に抱き着いて泣いた。男はそれを受け入れた。

河内国石川郡赤坂村字水分

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明治二十六年、河内十人斬りが起きた舞台、金剛山の麓にある大阪で唯一の村、南河内郡千早赤阪村大字水分に昨日行った。のは何故か、無論、町田康の告白を読んだからにはかなり行きたいに決まってるからである。行ったは行ったけど、もうへとへと、いや、それより、悲しかった、哀しかった、虚しかった、昨日もそうだが帰ってからというもの相当虚しい、死にたい。いやね、昨日寝る前に印象に残った事と言いますとね、村や神社に実際行けた喜びでは全くなかったっちゅうことやった。印象に残ったことは二つあった。一つはね、ちょっとこれからどう行けば水分行けるやろねぇと連れの方と途方に暮れとる時、一匹の見たことない赤い甲殻な小さい虫が地面に降り立った、可愛いので僕は見ていたら、車の通る方へゆこうとするものだから、そっちへ行くなと手で遮った、虫の自由を僕は奪った、虫はなんやのよ、もう~ゆうて道路でない崖のほうへ進路を変えて、僕は、よかったあと思ってずっと見ていた、その前に連れの方に踏まれそうになりかけたが僕の叫びで危うく助かった。僕は思った、今日ここに来て一番のええ思い出はこの虫に出会えたということかも知れないな。枯れ葉の上を一生懸命に歩いてる虫のけなげな姿、愛しさは膨らんでゆく、元気でいろよ、そう心に思う。思いながら見ていると、お連れの方が、知らんと虫の上を踏んで歩いて行った。僕の叫びは間に合わなかった、遅すぎた、反射神経鈍過ぎる己、枯れ葉を掻き分けた、掻き分け、掻き分け、掻き分け、やっと見つけた、虫は息を絶やしていた、鬱になった、枯れ葉を上から乗せた。僕が今日ここに来んかったらこいつは生きていたかも知れないのに、僕のせいで死んだ。僕が殺した。神は何を考えているのだろうか、何故この罪なき虫に死を与えたのであろうか、何故私の目前で、私に罪を与える為であろうか、己のその行動は間違っている、だからこのようなことになった、その罪を知れ、そう言っているのだろうか、わからない、神は僕に苦しみだけを与えようとしているのか、もっと、もっと、ぎりぎりのところで生きなさい、とそう言っているのかも知れない、そうだと思う、そうしなければ己、愛を知れないぜ、そう言ってると思う。

二つ目の印象は、道路に轢かれて緑色の体液を飛び散らせていた大きな毛虫の姿である。何故虫は赤ではなく緑の血なのか?という疑問からではない。この世界の不条理をあの毛虫は訴えてはいなかった、不条理な死に見えるが、だけども訴えない誰にも、違うんだよ、と、僕はこれでいいんだよ、僕の死はこうやって訪れるとそう決まっていたんだよ、僕の死を悲しまないで、ううん、大いに悲しんでくれ、そしてこの世界の目的を知れ、そう言っている、と今思ってんねんけどね、寝る前はただただ不条理だ不条理だ不条理だ虚しい死とは何か、死の意味とは何か、と思って水分村がどっか飛んでってしもたやないですかあ、兄貴ぃ、てわいは弥五っす、へへへ、熊やんどこ行った~探そかな~