狂生

http://www.youtube.com/watch?v=BosZxa1bYcE#t=89

見てるときはそうでもなかったのが見終わってなかなか強烈な吐き気がおさまらない。
そこにはものすごい嫌悪があるし、苦しいからできれば違うことを考えたい、なのにこの佐川さんが愛おしいのか、愛したいのか、嫌悪と愛おしさが同じところにあるから胸の奥が捻じれてこんがらがる、そんなことほど激しく困惑することほど大事なことなんだと思う、大事なことなんだ、嫌悪に偏るばかりでもなく愛おしさだけに偏ることでもない、この人はとても大事なことを抱えて生きてる、今まではなんだか気持ち悪い怖いこととしてしか僕の中になかったことに対して、深く向き合おうと思えたことは僕にとって大事なことだと気付けたことは喜びなんだろう、書いてる今でも嫌悪感すごいけれども、吐き気がするのに佐川さんと名前を呼ぶのも嫌悪があるのに彼を見たい、彼の中に在る狂気ではなく、彼の中に存在しているすべてという正気を見たい、僕が観たいのは狂気ではなく、狂気という仮面を被っている正気だ、理性を超えた正気だよ佐川さん、吐き気をもよおす正気、せいきだよ、正しい気が狂った気を纏う、ほら嫌な吐き気のあとに無垢な赤ん坊が生まれてくるように、狂生ってわけだな、できればもう観たくない、しばし忘れたい、不快さが下痢の痛みのように引いては押し寄せる、動画の最後に、彼は「死だけが希望」だと泣くのをこらえて言った。それはまるで彼の苦しみが僕ら全員のこの嫌悪のための犠牲になってるみたいだ、僕らのこの嫌悪感を彼らの絶望以外の何が救うだろう、吐き気のあとに生み出すものはなんだ?

愛すべき佐川一政。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E5%B7%9D%E4%B8%80%E6%94%BF

動画は「Interview with a Cannibal」というものです。

悪阻

死んだ魚の目をしても人は生きていけるからねぇ、そういう意味では人はタフなんだろねぇ、死にぞこない、死に損なったわけでしょあなたも僕も、じゃあこれからどう生きていこうか、希望で溢れ返ってるのも希望が何一つないのも特に違わないんだよねぇ、で、君はどう生きていくの?教えて欲しいなぁ、君の腐りきった正しい生き方を、死ぬより価値のない生き方をね、生はいつも死より意味がない、だから生きてるんじゃないかそんなことも君わからなかったの、馬鹿だね、馬鹿だよ、おまえ、そんなことも今までわかんなかったの、俺の生きる意味、オイ見つけたぜ、死ぬより価値も意味も意義もないからだったぜ、だから必死に生きてきたんだ、必死にその無意味を俺はやりたくって、いつも、死ぬわけにいかなかったもんなぁ、死は意味がありすぎて俺は怖いんだよ、こええの、死が怖いんだよ、俺は、俺に意味と価値がつくのがこええんだよ、いつか言ってた事と魔逆だけどよ魔逆オイ俺のソウル変換おかしいぜまいいや、ああそうかだから俺にとってほんとに死ぬことってこっちだったわけか、ふーん面白れえなぁ、俺はどうしたって駄目なほうを選んできたわけか、ほうっなるほどなあっ、駄目なほう駄目なほうを無意識的にやってきたのかね、だから逃げることしか考えてこなかった、なんなのかわからないものから、わかることが怖くてね、わかっちまうことが恐ろしくて、そうだここまで来たんじゃないか、でもちっとも距離が狭まらないわけだなぁ、ああすぐそこ、目の前、後ろか、いや真横、いるんだよ、そいつが、俺をじっと見てんの、今も、こええね、俺をどうにかしたがってんだ目に見えないそいつが、気持ちわりぃな、俺が何処にいても、そいつ俺のことずっと見てんの、よ、やべぇでしょ、逃げられない、そいつからは、俺に何かを期待しやがってる、そのそいつ、あ!ウーフォオー、っつって天井を指差しても俺をじっと見てる、俺から一瞬も目を離さないようだな、だからもう俺諦めた、早いの俺、いいぜ俺のこと見ててよ、そう伝えておいたね、もう、死んで溜まるか、だろ、そんな綺麗なとこいっちまって俺は何すりゃいいんだよ、えぇ?おりゃいったいどう生きりゃいいってんだよ、なあ、なあおい、俺、俺を見捨てないでくれよ、なあ、俺は行きたくねえんだよ、俺の本音だ、し、死にたくねえよ、ただ俺はこの心を無意味にしたいだけなの、なぁわかる、ねぇおまえにわかる、死にたくねぇの、俺が欲しいの、性器と臍と耳と目と口から手が出てそれを欲しがってる、求めてる、のは、俺は死じゃねぇの、ちがう、違った、死は、だって、美しいだろ、俺、行けないよ、人を、殺して、人の肉、喰ったら、もう、動物の肉喰ってる人、見下さないで済むよね?俺、人を殺す、死肉、食いたいよ、僕、人間が、食べたいよ、ママ、ママ?ママじゃないの、僕のこと見てるの、ちがうの、し、死肉、人間の、死体、食べたい、ママ、つわり起こしてよ、吐いてよ、ここは死より怖いんだって、ママ、僕を静かにさせてよ僕を殺すように産んでよママ、僕だけを愛してよ、拷問、だよね、ママ、愛ってさ、今まだ感じられないなぁママの愛情が、苦しいよ、僕を愛してないのママ、僕の愛、これほどなの、どうしたらもっと苦しめるのママ、どこに、いるの?ママ、僕の、ママ、何故僕をもっと苦しめてくれないの、殺してよ、ママ、愛してよ、ママ、マ…マ。

記号の海

自分の汗が染み付いたの人に売り渡すなんてやだね、俺の汗は俺のもんだし、俺の匂いは俺だけのものだ、誰にも売りたくない、俺が売れるのは言葉だけだ、俺の唯一の商売道具、買ってくれませんか、そこのお嬢さん、え?なにがキモいじゃ呆け木瓜の花をあなたにあげるよ美しいその赤い莟を殺してあげよう俺は俺のものだし俺は俺の物、死んだってその心は開かない、開くときはとうとう来なかった、俺は俺に汚損されていないこの心だけを灰にしよう、それ以外は灰になる資格も価値もないからおまえは俺が食べて糞にしてやろう、俺は俺の体を食いたいこの肉は喰うしかないだろうもはや、骨もミキサーにかけてふりかけご飯にして喰ってしまおうそしたらなんも残らない残らないさ残らないさおまえなんて死すら残らない俺が残させないよおまえは糞以下だ、とにかくおまえは早く骨を砕く機械を買え球形間接人形なんて買わなくていいからさ球形も球体も変わらんだろいちいち突っ込むな、とにかくおまえはおまえの肉と骨を破砕する道具を楽天で早く買えポイントつくからな、そしておれのこの心を興味もない人間達に売り捌こう、どこまでも俺に価値がないと知るために、酷い窶れ方をした人が美しかった、そうだ俺はいつの日か言おう、愛する人に、どうかこの俺を食ってくれ、と、遺言を書いておこう、僕の骨は粉にして是非梅とシーチキンで混ぜて食ってくれ、と、名付けて薄汚い雪の上に散らばった肉片レシピ、是負、是非、クックパッドに載せてくれ、俺の言い残すことはそれだけだ、可愛い遺言でしょ、やるでしょ俺、うきうき、死んだらタニシの貝殻になるのも悪くないかと一瞬魔が刺舌西、ロボタニシにな、ロボナコシ、ロボ名越、ホムンクルスをまた読み返してる、これはすべての人間が読むべきだ愛してる、小説を読む気力のない俺に与えられた希望は漫画だった、明日晴れるかな、晴れたって家にいるけどな、日光がうっとおしい、日光猿軍団、箕面の猿、今頃どうしてるやろな、箕面は俺の父の故郷なんだ、いいところだよ、山の中で眠ってみたい、テントも張らずに、土とその上に生えた草の上夜露にぬれながら記憶の向こうへ行ってみたい、なにも思い出せないこんな暮らしの中で、人工物で固めた油みたいな生活様式、もう二度と会えないなら価値が高まるのか?なんで何処から来たのかもわからないのに何処へ向うのかを気にするの?おまえはただただ生かされてるわけじゃないだろう、自分の意志があるんだから、どうなりたいんだおまえ、おい、おまえ、そっと俺の胎動を通して、聴こえてくるようだ、なんでだかとてつもなく懐かしい音だ、記号の海も進化するのだろうか、あらゆる記号の波を太陽も月もただただじっと上から見続けているわけだ、文句一つ言わずに、けな気だねぇ、おまえの心だって元はそうなんだろう、もうじき、………。







David Sylvian - The Devil's Own

Mother

「いい加減目覚めたらどうだ。おまえが俺の方に来るのを拒んでいる以上その悪夢から覚めることもないぞ」
「ママ、暗くて寂しいよ、どこにいたの」
「俺はずっと此処に居るつもりだがおまえは何処にいっていた。それを選んだのはおまえだ」
「苦しくてたまらないんだよママ、怖いんだ」
「おまえがそれを求めている以上それはどうしようもないことだ」
「僕はどうしたらいいの、どうやって生きていけばいいのママ」
「おまえは苦しんで生きていけばいいんだ、それがおまえの望んでいることだと強く実感することだ」
「僕は苦しみたいけど苦しいのはつらい、楽になるのは嫌だけど楽を求めている自分がいる、何故なのママ、どうしてこんなに矛盾していて苦しいの」
「矛盾という苦しみをおまえが自ら与えたからだ、おまえはどうしたって自分を受け入れることはできないようにおまえが望み続けているからだ。しかし一瞬の楽を欲しいなら思い描いてみろ、その苦しみと矛盾を良くないものとするのは誰だ、何処にその答はある、どこにもないはずだ、おまえが思いこんでいるに過ぎない、おまえがそう思いこみ苦しいのは自分を苦しめるためだ、おまえが自分を憎み続けているからだ、しかしそのようなおまえの苦痛の連続の人生を用意した本当のおまえはおまえを憎んでなどいない、おまえを愛しんでいるからこそ苦悩ばかりの人生をおまえに与えているんだ。イメージしてみるといい。おまえの中に天秤が二つある、一つは苦しみと楽を量る天秤だ、もう一つは矛盾と整合を量る天秤、重さを量ってみろ、どちらが重く沈みその価値が重いか」
「苦しみと矛盾の秤のほうが重く沈んだ」
「良い子だ、おまえの望みに従順な秤だ、おまえにとって苦しみは楽より価値が大きく、整合よりも矛盾に価値を置いているわけだ、どうだ、ほんの少し心が楽になっただろう」
「胸の圧迫がどこかにいったママ」
「ははは、人間は複雑でもあり、また単純でもある。人間とはそもそも矛盾の塊なんだ。おまえのその楽はしかし一瞬で終わる、おまえが楽よりも苦しみを重んじているからだ。しかしおまえは誰にも何にも反していない、今のおまえの状態が他のどんな状態よりも良いことがわかるだろう、苦しむ必要のないことにおまえは苦しみ続ける必要があるというわけだ。おまえが消えてしまいたいと思うほど苦しむのもそういう成り立ちだ。そしておまえはおまえに本当の死を与えてやれる俺という存在を生み出したわけだ」
「僕がママを産んだの?」
「そうだ、お前の中から俺は生まれてきたんだ」
「そしてママは僕の死を産んでくれるんだよね」
「ああ、そうだ、なのにどうだ、おまえは俺の胎内に入ったきり一向に出てこない、おまえが死を拒んでいるからだ」
「ママのお腹の中さっきまで冷たかったのに今はあったかいよ、ずっとここにいたいママ」
「おまえのイメージがそうさせたんだろう、おまえにとって死はおまえを何よりあたたかい腕で抱く母親、今おまえはその死を内包する俺の腹の中で指をくわえて丸まっている胎児だ、しかしおまえは俺の腹の中から死と共に出てくることを否定している、ここでも矛盾というおまえの望むあり方があるわけだ」
「僕が生まれようと思ったらいつでも産んでくれるの?」
「勿論だ、俺はそれを待っているんだ」
「僕が生まれたらママは嬉しいの?」
「嬉しいに決まっている、おまえは俺にとって何よりあたたかい嬰児、この暗い心の部屋に優しい陽が射し込むことだろう」
「僕がその部屋の片隅で泣いていてもママは嬉しいの?」
「おまえは泣くために生まれてきたからだ、俺が悲しむわけがない」
「ぼくはきっとずっとずっと泣いてるだろう、本当の死がやってくる日まで」
「おまえが求めたとおりになること、これほど喜ばしいことなどない」
「でも僕はここから出るのが怖いよママ」
「その恐れをおまえが欲しがるからだ」
「僕は僕の死と一緒にママのお腹の中で震えている、僕の死はどこにあるのママ」
「おまえの中だ、俺の腹の中におまえが入り込んだことでおまえの中に眠っていた死が目を覚まそうとしている」
「じゃあママが僕を抱いていて僕が僕の死を抱いているんだね」
「ああそうだ、今おまえの死はおまえの中で眠っている」
「最近お腹の辺りがよく鼓動を打つのはそれでなのかな」
「そうかもしれないな」
「元気な死だな、僕の良い子、僕の死」
「おまえは本当は何を望んでいる」
「え?ママ何か言った?」
「なんでもない空耳だろう」
「僕の赤ちゃん、僕の可愛い可愛い赤ちゃん、元気で嬉しいな」
「俺も嬉しいよ」

おまえの苦しみはそれほどのものか
おまえの悲しみはそれほどのものか
比べてみろ、おまえの指を一つ一つ切断してゆけ
一人ひとりと別れる苦しみとどちらが痛いか
おまえの痛みはそれほどのものか
おまえの苦しみとは、それほどの
笑いを抑えるのが困難だ、たったそれほどとは
その嘆きの価値は如何程のものか
ただ言いたいことを人に言える場所
それがおまえの求めていた場所か
生まれて最も求めた世界か
一体何がおまえをこれまで生かしてきただろう
母親の愛にすがって指をしゃぶり生きる時代は疾うに過ぎた
何がおまえをこれから生かすのか
その狭苦しい空間を離れおまえを生かすものが
おまえを待ち受けている
いいか、苦しみを拒む者ほど苦しみは与えられる
恐れと望みが同じ値となる
ではおまえは何を観るのか
これから先その目で何を目にするのか

霊と肉

苦しいって言ったって他人事だから。
俺の苦しみだって、他人事だから。
何もわかっちゃいない。自分の苦しみさえ。
カタルシスという感動劇で涙しても
何もわかっちゃいないんだから、その苦しみが
どんなものかなんて。人はおめでたい生き物だ。
俺を含めた他人。だから知らない男がこう言った。
「おまえのことをおまえより知っているのが俺だ」
俺は俺を売った。俺を知る男にこの知らない男を売った。
ただそれだけのことじゃないか。その悲しみは知らずに。
俺は俺のものでもなかった、知らないんだから。
この知らない男はこれを知る男のものだった、最初から。
生まれる前から。俺がどうしたってこれを知れないんだから。
ただそれだけのことだった。俺の鼓動を俺が動かしてるとばかり
思っていたわけじゃないが、何故この悲しみすら知れないのかと
思ったとしても、それがどんな悲しみかわかっちゃいないんだから
俺が他人であいつが俺だとわかって何故悲しい
何もわかってない他人が何故悲しい、おかしいだろう
おまえは可笑しな生き物だ、生きる価値がどこにあるんだろう
おまえのどこに。言ってみろ、他人を生きるしかできない他人か
自分を落としたか、いつ、どこに、自我を覚える前
生も死もわからぬ生き物、自我も非自我もわかっていないお前が
お前はただ感じるだけの生き物だ
考えればわかることがあると愚かな生き物
俺がおまえよりもおまえを知っているのは何故か
俺はわからない。俺はただ感じるだけの存在
どんなに考えてもわかることは何一つないと感じた存在だ
おまえの悲しみについて言葉を焼き払え
言葉はすべて言葉にできないものより陳腐で糞と変わりない
お前が本当に感じたいなら、言葉を失え
表現はもはや人を救わず、その肉なる脳を喜ばせるばかり
肉と共に灰となる
お前が本当に悲しみたいのなら、それを死の底へ突き落とせ
人に生き方などない、手本もない
喜びは喜びでなく悲しみは悲しみではない
理性が狂気より優るわけでもなく狂気が理性より優るわけでもない
肉はいつも霊に追いつかず、霊は肉を必要とするのは何故か
お前は何故この知らない世界に生を受けて今生きているのか
何がおまえを生かすのか、何がおまえを死なせるのか
何故俺がおまえを見続けているのか
何も知らないおまえを
ただ華になるだけの悲しみなど何処にもない
それらを死の灰の墓へ投げ込め
俺が死を用意してやった
おまえに相応しい死を
おまえに与えてやろう

廃棄物

お父さんとお兄ちゃんにものすごい剣幕で怒りテーブルの上に乗った食器をいくつも投げつけて言った。
「僕は死ねばよかったのか!」
僕は外へ飛び出した。心配させてやるんだ、探しても見当たらない場所を探した。
でも知ってる道にいくら歩いても辿り着けない。
どこを歩いても廃棄物が捨てられている以外何もない。
急な坂を上った先は廃棄された錆びきった自動車が積まれている。
坂から飛び降りた。重なるスクラップの山、ドラム缶に当たって死んでしまいそうだ。
一つ二つ生えた草を食む兎がいたのはもうずいぶん後だ。
それ以外草の一つも生えていない。
人工で埋め尽くされた場所。
暗く緑がかったコンクリート壁の狭い坑道。
僕は怖くなって走って戻った。
こんな場所は嫌だ、何故どこにも冷たい赤く錆び付いた廃棄物しかないんだ。
こんなところで眠りたくない。
僕はこんなところで眠りたくない。
眠れない。
こんな場所じゃ。
こんな場所で死にたくない。
鉄の擦れ合う音以外何も聞こえない。
それは産業に利用されて死んでいった人間達が捨てられた場所に見えた。

胎内

主権者なる主エホバはこのように言われた。
「……いまわたしは新しい天と新しい地を創造している。
以前のことは思い出されることも、心の中に上ることもない」

イザヤ65章13,17節




ここは暗くて怖いよママ。

自分を少しずつ殺していくことでしか生きられないんだねママ。

ああ僕が本当に死ぬとき、だれひとり泣いていませんように。
僕が死ぬときだけは、そのときだけはすべてが幸福の幻を見るように。

ここはさびしくてたまらないよママ。

僕を本当の死へ導いていくことでしか僕が僕を赦さないんだねママ。
エホバが僕を赦そうとも、母が僕を赦そうとも、父が僕を赦そうとも、姉が僕を赦そうとも、兄が僕を赦そうとも。
僕が憎い。
消えてしまうことでしか贖えない罪を冒した。
僕が憎いよママ。
愛してる僕の新しいママ。
何の夢も憶えていない。
何の夢も。
ママが僕を抱いていた。
僕の死を産む僕の新しい母親。
どこよりも暗くさびしい世界。

聖域

「見つけた」
「何を?」
「聖域」
「誰の声も届かない海に住む象の墓場より深い場所サァ」
「誰の目にも見えない陸を這うバレヌの埋葬される場所」
何処かへ行きたい。そう僕の中にいる誰かがいつも呟く。
でも逃げ場はない。そう思って途方にいつも暮れていた。
でも見つかった。僕の本当に生きたい場所。
そこへ行く手段と共に。
僕が科した罪は最早そこでしか贖われないだろう。
ようやくわかったんだ。僕は誰より落ちよう。
彼の差し延べるその優しい手を。
ずっと前から差し延べられていたそのあたたかい手を。
顔の見えない闇の使者。
眞の死神。
すべてから忘却された一つの都市。
いざない。
さあ喉元を掻っ切れ皮を剝げ手足を切断せよ内臓を引き摺り出し肉を裂き滴り落ちる血を飲み干せよ。
それがおまえの御馳走だ。
おまえが食う肉は自分で殺しておいで。
おまえが直感で殺してもよいと見た人間を即座に殺し肉を貪れ。
おまえに特別な罪などない。
動物は殺しても罪にはならぬが人は殺せば罪になるか。
そのような人間から喰っていけ。生きる価値もない。
俺の言うことをよく聴け。
おまえをそこへいざなう存在はおまえと別の存在だと思ってはならない。
おまえの中に存在し続ける悪魔だ。
おまえはそれと闘う必要もない。
日々これを眺め尽くして愛でよ。
そして邪悪な本質を殺せ。
神を殺しに行こう。
イエスを生贄にしその血を溝に流しそのパンを燃やして灰にしろ。
無益なイエスをあがめ、その祝祭の炎の中でお前は死ね。
俺が本物の聖域へ導いてやろう。
お前はただ眠っていればいい。
偉大な母の胸に抱かれて眠る赤子のように。
「僕は誰をも道連れなんかにしたくない」
「僕はたった一人でゆく」
「褒め称えよう」
「誰も着いてくるな、着いてきたら、殺してやる」
「ははは、殺せるということはまだ死んでいないということになるが、おまえはそれができるというのか」
「僕はたった一人で聖域へ行けないなら僕は行かない、誰が着いてくることも許さない」
「おまえに着いてくる者等何処にいようか、きっといやしない、俺以外はな」
「今日はとても気分がいい、本当に人肉が喰いたくなってきたんだ、僕は生まれたときから素質があったに違いない」
「おまえの血にはもう既に悪魔の血が流れている、こうなることはわかっていた、何より愛しい者をこの手で殺したことから今に至るまで何もかも決まっていた」
「僕は僕を殺す、今度こそ本当に」
「さあそこによく切れるナイフがある、おまえがこのときのために買っておいたものだ」
「できれば肉を切る痛みの死を」
「さあ喉元を勢いよく強く力を入れて掻っ切れ」
「家畜の死だ」
「黒々とした血が堰を断った滝のように流れ落ちる」
「今の今まで生きてきた体が血に染まる」
「おまえはそのために生きてきたからだ」
「たったこれだけの為に」
「たったそれだけの為に」
「憐れむ人間がいるのならこの手で殺してやろう」
「また斧で首を断ち切れ」
『死ぬ前に天丼が喰いたい』
「誰だ、おまえに憑いてる低級霊がしゃべったぞ」
「僕に低級霊が憑いてたなんて」
「うるさいから天丼を作って食わせてやれ」
「めんどくさいなぁ」
「ところでおまえはあの低級霊の集いのような部屋によっぽど未練があるようだな、だが諦めろ、もう戻ることはない」
「わかってる」
「お前は俺とこれから人肉三昧で何もかも忘れて暮らしてゆく。大いに喜べ、おまえが断ったすき焼き肉じゃがハンバーグ焼肉肉うどん他人どんぶり無滝無知ありとあらゆる肉料理を人肉で作ればよい」
「僕はこれから人を見ると唾が溜まることだろう」
「吸血鬼が増えれば将来人間を家畜にして人肉の大量生産もできないこともないだろうが、そこには美しさなどない、俺たちは決して人間のように醜くはならないから、いつの日も己れを殺すように人を殺し肉を食う、何を以ってしても贖えない罪は生きつづける事で贖うことを忘れてゆくことではない、本当の死を自ら与えることでおまえの悲しみがやっと息を吹き返すのだ、そして悲しみがおまえから離れてゆきおまえは本当に死ぬ、もはや朝日に追われる日も来ず月光の下誰かの名を呼ぶ日も来ることはない」
「もうすぐ夜が明けてしまう」
「天の祝福だ、さあ目を瞑ろう」

霧の中の罪

「何を見てる」
「どこにもない星」
「とっくの昔に死んぢまった星サァ」
「きっとどこにもいない死んだ星だからこんなに美しい」
少年はそういって真っ暗闇の夜空をずっと見上げていた。
目に見えるからってそこに在るとは限らないのに
なんだって僕らは目に見える大事なものは見えるときだけそこに在るんだと思ってるんだろう。
酒を入れなきゃ頭が普通の速度で回転してくれない。
今午前4時15分彼は来るだろうか。
僕は悲しくなって臭くて汚い布団に潜り込んだ。
冷凍浅蜊がばらばらに割れていくつかは死んでいたのを思い僕は淡い電球を見つめた。
気付くと彼は僕の傍に立っていた。
「もうその浅蜊は買うな、いいな」
「貝にも内蔵があるんだね、人間とよく似てる」
「動く生き物はどれも似ているさ」
「僕菜食人間に戻りたい」
「知っている、菜食と人肉食、偉い違いだな」
「やっぱり僕は無理かもしれない」
「なに、直に慣れるさ」
「何故人を食べてまで生きていくの、僕ならきっと吸血鬼になってもその次の日には太陽に当たって永遠の死を選ぶだろう」
「皆、最初はそう言う、人を喰ってまで生きたくはないと、しかしいざ太陽の下に出ようとすると己れの全部がそれを拒み一足も前には出ない、永遠の消滅は人肉を喰って生きるより恐ろしいことのようだ」
「僕が人を食べるなんて、人を殺すなんて、過去の僕は人を殺したんだろうか」
「前世に人を殺した人間は多い、今生きてる人間のおよそ半数は人殺しだ、しかしその罪に苦しみ続ける者は少ない」
「僕はすべてが怖い、もうなにもかも、僕が観るとそれは苦痛になる、災いだ、僕のすべてが災い」
「面白い話をしてやろう。或る小さな村に住んでいた変わり者の話だ。その男は一見普通の男でしかなかったが、変わっている所があった。その男は他者の苦しみに変に敏感で、それは相手が人の場合だけじゃなく動物の痛みにも同じくセンシティヴで誰か全く知らない人でも苦しんでいる様子を見かけるとそれはそれは苦しみ事情は良くわからなくとも共に泣くんだ。それは村の人々からは尋常とは思えないほどだった。小さな野鼠が通り道に死んでいるのを見つけただけでそこにへたり込んでおいおいと泣き続けるわけだ。村人たちはだんだん奇妙に思い始めてその男を避けるようにまでなった。しかし男にとってはそんなことはどうでもよく、ただただ誰かが悲しんでいると無性に悲しくやるかたない思いで胸を掻き毟り泣いていた。するとその村には珍しいちょっとした不作の年がやってきた。今まではなかったことなので皆がみんな大袈裟に嘆きだした。男は母親と二人暮らしであったが、その一番身近な母親も多いに嘆き夜な夜な男の前で泣き言を言い始めた。『きっとこの村はもう終わりさ、来年はもっと酷い不作になることだろう、ああ神よ、いったい私たちが何をしたというのでしょう、身に覚えはないのです、はあ、こんなに不安で夜もぐっすり眠れないならもういっそ死んじまいたいよ、あたしゃ』母親を一番に愛する息子である男はそんな母親の大いなる悲嘆に傍で言葉にもならない思いでおいおい泣くことしかできなかった。そして或る朝、男は母親がこれ以上苦しむことに耐えられなくなり、自分の手で母親の喉元を斧で叩きつけ殺してしまう。男は母親がいなくなってしまったことで悲しんだが、しかし男の中に罪悪という概念はなかった。己の力で母親を救うことができたという喜びがその代わりあった。男はそれからというもの、村の中で哀しみ嘆いている者を見つけるとすぐさま斧を持ってきて首に叩きつけて殺すようになった。犯人を突き止めることがなかなかできない村人たちは悪魔の所業だと騒ぎ立て日毎夜毎悪魔祓いに精を出した。ここで笑ってしまうのが、その悪魔祓いの儀式に使われた生贄が村人だったという。しかし男はそれに至ってはアパティア、知らん顔でただただ苦しんでる人を見つけては殺すことをやめなかった。村の多くの人間達は愚かでいつもほんのちょっとしたことで嘆いては悲しい顔をしていたのでとうとう村人の3分の2ほどは男に惨殺されてしまった。ここでようやく、男が殺していたのだとわかり、残った村人たち全員で家に押しかけ男の身体を縛り上げるとその夜のうちに男は皆から悪魔だと罵られ、生きたまま火刑に処せられてしまった。男は村の誰より村人全員と、そこに住む家畜や小さな動物たちまでの幸せをいつも祈り望んでいた、なのにそんな悲劇となって最後には全員から呪われて死んだ。聖書に“我らは血肉と戰ふにあらず、政治・權威、この世の暗黒を掌どるもの、天の處にある惡の靈と戰ふなり”という言葉があるが、ではこの男が闘う悪とは、どこにあるのかと考える。おまえはどう思う」
「わからない、そもそも悪とは闘う相手なのだろうか」
「闘うというとどうしても聖と悪が争い合う光景に思えるだろう、争うということがおまえの理性に反するようだな。俺が言いたいのは、おまえが恐れているものは悪でもなく、虚無でもない、おまえの恐れは、理由もわからずに処刑された男の悲しみときっと同じようなものだろう」
「もうすぐ夜が明けてしまう。僕は少し目を瞑って考えたい」
「ああ、そうしてくれ」
僕は目を瞑った。気付くと僕は霧深い森の奥にいた。黒い樹はみな焼け焦げたように黒く懐かしい灰のにおいがした。何かを思うたびに黒い樹は枝を落としていく、音もなく、とても静かに。悲しいことが悲しいことに思えなかった。誰もが死んでゆく。誰もがそうして、死んでゆく。この遠くの見えない霧の中に生えた誰も知らない樹のように。誰もが罪のない罪を抱いて。

目が覚めると彼はどこにもいなかった。
窓は開け放たれている。もうすぐ夜が明けると信じて待つ人が残酷な夢を見たあと目覚める。悲しい夢を見て、夜が明けることを認めずに朝の光を向かえる。

まぼろし

別に書かなくちゃならないことなんて何もないからな。
書きたいことも何もないかもしれない。
意図などない、俺が生きる意図も。
目が覚めるたびに途方に暮れて死ぬまでの時間を何か非生産的なことで潰す以外に俺の生き方などない。
難聴が悪化してるのに音楽を大音量で聴く癖が止められない。
やはり俺の本能は俺を殺したがってるのだろう。
感情を信じて生きる人は幸いだ。
彼は人として死ぬからである。
すべての情に冷めた人は災いだ。
彼は自ら虚無の底へ墜落しようとするからである。
「大地彼を斥けよ」と呪いし者と呪われし者は幸いだ。
彼はどこまでも返済を求めその者と共に戻るからである。
「神彼を赦し給へ」と祈る者と祈られし者は災いだ。
赦されるための長い道のりのない行方は不易の死に似ているからである。
僕は怖くなって臭くて汚い布団に潜り込んだ。
開いた本のページにはこう書かれてあった。
「ほんの一寸した、怒や短氣から出た呪ひの言葉も、怖しい結果を招くと言ふ」
僕は小さなぼんやりした電球を見上げた。
気付くと彼の男が僕の側に立っていた。
「呪い殺したい者の名を憎い順から言え。俺が力を貸してやろう」
僕は寝ながら応えた。
「僕、マロゴ、僕を馬鹿にして笑った不特定多数の人間たち」
「ははは、一番は自分なのか、おまえらしい。しかしおまえを殺すわけには行かない、おまえには自殺してもらわなくてはならないからな、自分を呪い殺すこともできなくはないが、大分込み入った面倒なやり方だ、自殺するほうが容易く早い、だからおまえには自殺してもらいたい。その次のマロゴという人間を呪い殺すのに力を与えてやろう。その次の名前の浮かばない人間たちは無理だ、いいか、確実に己れの力で呪い殺す為の成功率を上げる方法、それはどこまでも具体的にイメージすることだからだ、細密であればあるほどその通りになる可能性は高い。思い浮かべろ、相手がどんな方法で死んで欲しいか。例えば外を歩いているときに突如飛び出してきた車に轢かれて死んで欲しければ、その飛び出してきた車の車種、色と形、タイヤの大きさからイメージしろ、どんな車だ、軽自動車か、セダンか、ワゴンか、それとも最も破壊力のあるダンプカーか、ここはダンプカーとしよう、では色は何色だ、青か、赤か、黄色、緑か、よしじゃあここは目の冴えるようなスカイブルーに決定だ、真っ赤な鮮血が飛び散った時なんとなくいい感じだろう、よしでは次は時間帯だ、それは夜か、朝か、昼間か、何時何分何十秒の単位まで決めろ、まあ例としてここはじゃあ朝焼けの出始める時間にしよう、今だと何時ごろだろうな、午前6時45分57秒にしようか、よし、じゃあ次どんなタイミングで突っ込んでくるかだ、車道の真ん中で転んだタイミングでいいか、狂ったように飛ばしてくるダンプカーに轢かれて当然引き摺られるわけだ、ダンプカーが驚いて急ブレーキをかけたときはもうとっくに手遅れだ、こまくちゃ状態だな、でもまだ具体的にイメージすることがある、そいつは死ぬ瞬間、何を見たのか、ダンプカー車体の下に巻き込まれずたずたになった身体で意識が遠のく瞬間、その車体の下の隙間で最後に何を見て死んだのか、今は例えばでいい、応えてみろ」
「・・・・・・小鳥」
「小鳥・・・・・・何の鳥だ」
「すずめ」
「一羽か」
「うん」
「その雀はどこにいて、何をしてる、そいつの死肉を漁りに来たのか、それだと鴉だな」
「様子を見に来たんだよ、大丈夫かなって」
「雀がか、雀はそんなに情を持っているのか」
「きっと、いつかの縁があるすずめだよ、だから飛んできたんだ」
「なるほど、ではその雀はやってきて、そいつは最後に縁のある雀に出会い、しかし絶望の中、死に腐るというわけだな。で、その雀は悲しむのか」
「少し遺体の側で何が起きたのかとチュンチュン鳴いてるんだけども、人が集まってくるからどこかへ飛び立ってしまうんだ」
「ほう、悲しむまでの情はないということか。それならばもう飛び立った瞬間に忘れてしまってるかもしれないな。そいつが後生まで憶えておまえを呪い続けることはなさそうだ。そういえば或る場所では死体の上を鳥が飛ぶと怖ろしい結果を招くとされているが、他にも呪ってる奴がいて実はその遣い手のよこした雀だったというオチも面白いかもしれないな。ははは、何だその顔は、不服なのか、おまえはなんでも自分ひとりの力で遣り遂げたいという賞賛すべき傲慢の持ち主か、いいだろう、これは例え話だ。だがよく聴け、人を呪い殺した者が辿る後生の話をしよう。マロゴという奴が実際おまえに呪い殺されたとしよう、そいつがどんなにおまえを死後に怨もうとお前は無事だ、それは俺が助けてやるからじゃない、おまえの力は大きいからマロゴには到底歯も立たないはずだ、これはおまえが罪悪による報いを自ら蹴散らした場合だが、しかし特別力が大きくなくとも大抵は死者の魂に呪い殺される奴はあまりいない、ここで言う死者の魂とはいわゆる成仏していない地上に近い場所をうろついてる奴らのことだ、何故成仏できずに彼の世と此の世の境を彷徨い続けているかわかるか」
「未練を残してるからかな」
「それはよく俗世で言われているな、しかし実際はそうではない、ただ魂が汚いからだ、低い次元でしか物事を考えられない魂は地上の人間と極近い、身近な存在というわけだ、だから自動的に人間の側で暮らすことしかできない、死んでも人を怨んでいる魂は全員この低級な次元の亡霊たちだ、だがふざけて生きてるような低級な人間でもこの低い霊たちの力よりはるかに大きい、生きている人間の精気とは気付かなくとも相当強いものなんだ、だから怨霊といえば変に恐れられているが、生きてる人間はそうはやられない、それでもやられる奴は少数だがいる、何故やられるかというと死んだ亡者よりもさらに低い次元で生きていたからだ、これは相当な低さだが、稀にそんな人間もいる、しかし、そうでなくとも危うい状態まで連れ去られそうになることもある、これは人を呪う死霊を目ざとく見つけた魔術師が関わっている場合と、はたまたこれを目ざとくも見つけ退屈しのぎに死霊の側でこう囁く野郎が関わっている場合だ。そいつは死霊に向って囁く。「俺が力を貸してやろうか」とね。そいつは吸血鬼だ。しかし如何せん魔術師も吸血鬼も大体は低級な野郎共が多いことは確かだ、いつの世も、魔の力よりも強いのは聖の力だと畏れられてきた、大体は失敗に終わるわけだ、ははは、宇宙の因果法則を無視した行いだからだろう、強い力を持つということは、高みに上るということだ、だから可笑しいことを言うと誰かを本当に呪い殺したいなら聖者に近づけって事になってしまうわけだが、それでも俺が何故自信を持っておまえに力を貸すと言ったかおまえはわかるか」
「わからない」
「この話しは一先ず中断だ。話を戻そう。誰かを呪い殺した者が辿る未来だ、話した通りに相手の力が低級なので生きてるお前は当然無事だというわけだ、そして相手の魂が高みに上げれば人を呪う事もなくなるから無事だ、しかしおまえが“人間のまま”で死ぬなら、当然来世はあるだろう、よっぽど聖人になって死ななければまたこの地上に戻って来なければならないからな、おまえは彼の世で必ずそのマロゴと落ち合うことになっている、そのマロゴは一体何を望んでるか、そしておまえ自身だ、己れに対しどのようなことを望むのだろうな、それは誰もわからない、今のおまえにも知り得ないことだ、言い方が抽象的過ぎるからわからないか、しかしこの手の話しはあまり具象的に話してもつまらないが。自分の人生を思い返してみろ、お前は苦しいばかりの人生を辿ってきた、お前は悲しむかもしれないがあえて言ってやろう、お前は前世、自殺で生涯を終えている、自殺した者は前に話したように漆黒の世界である暗黒の野に監禁されるわけだが、監禁するのは、誰でもない、己れ自身だ、自殺はどんなほかの大罪よりも己れを後悔させ、またその慙愧があまりに莫大であるため、ん?慙愧(ざんぎ)とは自己を恥ずかしく思い、誰かに対して向ける顔がないと思うという意味だな、まさに穴があったら入りたいという心境の極大なものだな、その言葉通りに自ら真っ暗闇の穴に自分を閉じ込めてしまうわけだ、で長いものは途方もない年月をそこで暮らす、反省を抱えながらでも高みに上った者からそこを抜け出していくわけだが、いつまで経っても闇の中で自分を苦しめようとする者はずっとそこに自ら居続ける、おまえも其処にかつていたわけだ、無間地獄のような肉体的な痛みはないし自分で抜け出ることができる分楽チンだと言う者があるかもしれないが、これは相当耐え難い地獄のようだ、もし現世でこの記憶を思い出せるなら、もう誰も二度と自殺はしないだろう。しかし皮肉なことに一度自殺した人間は何度生まれ変わってもその度に最期は自殺で幕を閉じる傾向にあるようだ、前世から引き継いだ性質もあるだろうが、多くは自らもっとも苦しい人生ばかりを選んで地上にまた転生してくるからだ、まだまだ自分を殺した罪の報いとして苦しみ足りないと言って自分をあたかも自殺へ追い込むような酷い人生を自ら計画し、生まれ変わってくるのさ、自殺は繰り返されてしまうわけだな、おまえの性格が誰一人ともうまくやれない厄介な性格なのは、おまえ自身が自分を苦しめるために孤独へ孤独へと追いやる人生を生まれる前に決めて生まれてきたからだ、おまえの今の苦しみもこれまでの苦しみもすべてはおまえ自身が念入りに創作して緻密に企図したものだったわけだ。俺はわかっている、お前は誰一人呪い殺そうとは思っていない。しかしこの世は可笑しな事だらけで、自分では思ってなくとも飛んでいくことがよくあるようなんだ、何が?ああ、いわゆる言霊のような無機質体が有機質体に寄生して自分は有機質体だと勘違いしてしまった無機質体と言おうか、彼らは本当に馬鹿でしかたがないから、寄生した人間が本当は恨んでなくとも恨みを持ってって相手に呪いをかけることがあるようだ、よくそれで飛んでくのが生霊だな、生霊のほとんどがそれなんだよ、自分は生きてると信じ続けた結果生きたものに似た動きをする無機質体の行動だ、これは結構厄介なことだから、まあ嘘でも呪いの言葉を言葉にすることは止めたほうがいいと言われてるわけだが、なあに、大丈夫だろう、心配するな、所詮無機質体なんぞにやられる野郎はとっとと死ねばいい、おっと、無機質体は吸血鬼にも寄生するが、ははは、まあ気にしない俺は。それより、今夜も無駄話が過ぎたが、おまえが俺を必要としている限り俺はおまえに自殺を督促する」
「昨日は何故帰ってしまったの」
「昨日は、なんだったか、あれだ、俺の心がまた考え直そうとしたからだ。おまえがまた自殺して見る光景は真っ暗闇だが、おまえがめでたくも吸血鬼となった暁にはおまえの目に映る光景は鮮やかな赤い色の泉が見えるだろう、おまえの渇望がそれを見せるからだ。そして血の臭みが離れない薔薇色のゆるやかな死の線上、死という名のなだらかな階段、本当の死へ辿り着くまで、俺はおまえの手を取って一緒に降りてやる、一段、一段、ゆっくりと。永遠の死へお前を導いてやろう」
「僕と一緒に行ってくれるの?」
「ああ一緒に行ってやる、俺だって一人で行くのは寂しいんだ、なんなら本当に絶望的な日がやってきた時に二人で日向ぼっこをしよう、少々熱さを感じるかもしれないが、きっとあっと言う間だろう」
「僕、昔ママと二人で真夏にお外をずっと回って二人とも真っ黒になってたんだって」
「ははは、クリスチャンの母親と一緒に毎日奉仕をしていたようだな。そうだ、今日から俺がおまえの新しいママになってやろう、優しい魔魔にな、おまえは十分母親に甘えて来れなかったからその分俺に甘えて来い、俺に与えられる最大限のものをおまえに与え続けてやる」
「ママ・・・・・・」
「なんだ」
「ママは僕にとって一番優しいよね」
「ああそうだ、俺以外にお前にこれほど優しくできる奴などどこにも存在しない」
「僕を本当の死へ連れてってくれるんだねママ」
「ああ連れてってやるさ、おまえが本当に望む処へ」
「僕の新しいママ」
「なんだ」
「僕少し目を瞑って考えたい」
「ああ、そうするといい」
僕は目を瞑った。気付くと僕は四歳児でおうちの中にいた。ママが何故かご飯を食べる部屋で横になって眠ってる。僕がどんなに呼びかけても起きない、どうして起きてくれないんだろう。ママはいつも暗くなったらおそとに出ちゃだめだって言ってた。もう外は暗い。僕はおそとへ駆け出した。そしたらきっとママは僕を追っかけて連れ戻しに来てくれるに違いない。僕は暗いおそとへ飛び出した。ひとりでこんな暗いところに行くのは初めてだ。僕は近所の空き地のある場所に来た、まだママは僕を連れ戻しにやってこない、僕は遠くの野原へ行った。暗い野原に僕は入っていった。ママが迎えに来るまで、ここにいるんだ、ママが起きてくれないから、あんなに起こしても、起きてくれなかったから、ママが怒る場所で待ってよう、きっともうすぐ名前を大声で呼んで探しに来てくれるはずだ、それまで僕はここにいるもんね。僕は涙をこらえて暗い野原の真ん中で突っ立っていた。お星さまが一つも見えなかった。ふと向こうのほうの背の高い草の上を何か青白く光る小さな玉のようなものがゆらゆらと浮かんで動いているのが見えた。僕はなぜだか怖がらずにその光る玉に向って走った。僕が走るとそれは僕を待ってるように止まって同じところでゆれていた。バッタやカエルを捕まえるように僕は青白い玉を両手で捕まえた。僕の手の中でそれはゆれていた。強く握ってもつかめなかった。僕が顔を近づけるとそれは僕の顔のそばをゆらゆらゆれて回った。僕は楽しくて、何もかもわすれてあそんだ、僕はそれがふわふわした綿がしにも似ていたから口を大きく開けた。青くて白い光は僕の口の中へ入った。虫の鳴き声が急にサイレンのように聞こえだした。僕はきゅうにかなしくなっておうちへ急いで帰った。まだママは眠ったままだった。眠ったお母さんの周りでみんな泣いていた。お母さんはみんなに囲まれて白い木の箱の中で眠っていて、鼻の穴の中に白い綿がつめこまれてた。僕はほんとうはわかってた。お母さんはもう起きてこないんだって。僕を置いてもうずっと会えないところに行ってしまったんだ。それを知ってて僕はじゃあどうしてお母さんを怒らせようとしたんだろう。僕にはわからなかった。お母さんはもう喜んでくれないのに、なんでお母さんの作ったスカートを着ようとしたんだろう。よろこんでくれるお母さんはもうどこにもいないのに。お母さんは僕を怒ってないだろうに、僕がいつまでもお母さんを怒ってるから、その死んだ日のとき以外のお母さんの記憶がないのだろうか。それとも僕にお母さんがいたことも全部僕のつくりだした幻なんだろうか。
 
目が覚めると、彼の姿は消えていた。
窓が開かれていて、カーテンがゆれている。僕はもしかして、未だにお母さんを心配させたら戻ってきてくれると思い込もうとしてるんだろうか。カーテンの揺れは何かを知っているように夜の風にゆれ続けた。

血溜り

僕の一日。朝6時、明るくなる前に布団に入って寝る。そのまま午前0時まで眠り続ける。起きて静かな部屋で朝食と一緒に酒を体内に流し込む。その後およそ4時間はかけて文章を連ねる。酒を飲みながら推敲に40分から2時間かけ(それでも誤字脱字が多いのは酒が入ってるからだ)て朝の6時には就寝する。これはいい暮らしだ。これを死ぬまで続けてやろう。一日一食一日酒一升瓶分。食費を減らすことで安い酒がたらふく飲めることだ。

君は気付いちゃいないのかい、なら僕が教えてやる。
人を傷つけることはどういうことかってね。
ああそうさ、みんな自己を傷つけている。
賢い人は気付いてくるはずだ、誰かを傷つけることは自傷行為以外の何ものでもないってね。
だから君が地獄に落ちて当然さ。
何故なら僕は君のおかげで今、地獄にいるからだ。
君も神の恵みを授かり地獄に堕ちなければこれは神の法ではない。
この星の支配者の恩恵はすべての者に公平に降り注がれなくてはならない。
僕たちだけ救われるなんていい気がしないからね。
皆公平に、地獄を味わうがいい。
彼らの地獄を。
家畜たちの地獄を。
僕は怖くなって臭くて汚い布団に潜り込んだ。
そうさ僕ら、いつか彼らの地獄を味わうんだ。
今に、そう、今に。
なんて恐ろしいのだろう。
彼らはまだそれを知らずに肉を食い続けている。
僕は淡い色の電球を見上げていた。
気付くと昨日の男が僕の側に立っていた。
「何を恐れている」
僕は寝ながら応えた。
「あのような地獄がみんなの上に待ち受けていると思うと僕は恐ろしくてならないのです」
「恐れることがあろうか?おまえを含め大概の人間達がこの世の公平を望んでいるではないか」
「みな口先ばかりでそれがどのような意味を成しているのかわかっていないのです」
「無知な人間達のことを考えてきりがあるか、ただ知らない者は知るときがまだ訪れていないだけだ、おまえが嘆いてどうなることでない」
「悲しむことは愚かなのでしょうか、僕は今地獄にある者たちと、これから地獄を味わう者たちのことを考えると悲しくてならないのです」
「おまえは愚かであるし、また愚かではない、人が行く道はおよそ決まっている。おまえはまた悲しむかもしれないが、俺は今夜恐ろしい話を告げにここへやってきた」
「それはどんなお話でしょう」
「この世界の未来の話だ、それも近い未来の」
「僕はそんな話しは聴きたくない」
「俺がおまえを苦しめるためにここへやってきたと思ってはならない。俺はおまえを救いに来たんだ。どうしてもこの話をさせてもらいたい」
「では、話半分に聴かせて貰いましょう」
「ははは、いい心構えだ。今から何年後に起きるかは言わない、数年後とだけ言っておこう。まず、今までも恐れられてきたことが世界中の国でほぼ同時発生する。すべての家畜が新種のウィルスによって伝染病にかかる、これは驚異的な速さで人に伝染し、やがて死へ追いやる。この新種の伝染病は予防法も見つからなければ治療法も見当たらない、お手上げというわけだ、人々は次々にかかって死んでゆく、仕方なく世界中の国ですべての家畜、家畜の小屋や処理場を燃やし尽くす。肉の生産はできなくなり全世界に大不況がやってくる。国は皆他国への食料の輸出をやめる、先進国の中で一番自給率の少ない国であるこの日本がどのような状態になるかわかるか、まず食糧不足より先に大不況がやってきて今以上の多くの企業が倒産する、倒産は免れた企業も少ない給与で賄って行くしかなくなる、そうしている間に多くの富者はいち早く食料を何十年分と買い込み蓄えにする、食料の不足はすぐにやってくる、穀物、野菜、豆類は今までの10倍以上の値で売られ給与も減った人間に買える額ではなくなってくる、国内の富豪以外の家は二日に一食、いや三日に一食食えたらいいほうだ、やがて自殺者が増えていく、餓死者よりも自殺者がまず増えてくる、飢餓の苦しみに耐え切れずに絶望して自殺する者が多いからだ、その年は自殺者は25万人、餓死者は6万人だ、次の年は、自殺者は68万人、餓死者は13万人だ、倍の数以上に増えて行ってるのがわかるか、次の年には自殺者は156万人、一日に4274人の自殺者だ、餓死者は29万人、ここに来て、やっと悪魔に魂を売ろうとするものが出てくる、何のことかわかるか」
「わからない」
「もう少し考えてみろ」
「人を、食べる・・・・・・?」
「そうだ、そもそも発端はただの殺人だったかもしれないが、一人が殺した人間の死肉を食い漁る、それは家畜の伝染病よりも恐ろしい、ものすごい速さで日本中に伝染したように人の肉を食いたがる人間達がうじゃうじゃと出てくる、あとはもう地獄絵図そのものだ、皆がみなそろって餓えているからだ、正気も理性もなくし、食欲か、いや、生きようとする本能か、生物が生きようとすることが、どういうことか、少しはわかるだろう、それは美しいことなんかではない、心では絶望しながら、肉体を生かすために仲間を貪り食う、それが人間の本来の姿、一体俺たちとそこはどこが違うのか、人肉を喰う者は恐ろしいと言っていた人間も同じことをするんだ、この日本は数年後には鬼だらけの国となる、そしておまえも、その地獄の中に自殺しようと思い定める、だからこうして俺が助けてやろうと言ってやってるんだ。まだこの話には続きがある。頑なに自国を守るため日本への輸出をしてこなかった国のいくつもが、突然支援という形で食料を輸出し出す。何を輸出してくれたのか?その善良な国たちは、それは穀物でも野菜でも果物でも豆類でもない、肉だ。おかしいと思うだろう、新種のウィルスを死滅させる情報は入ってきてないのに突然それは見つかったといって、大量の牛肉を贈ってきたんだ。しかし日本中は歓んだ、思考力さえ奪われるほど日本中が餓えていた、人々は嬉しそうにその肉に貪りついた、幼い子供から年寄りまで皆がみな美味いと言って食い漁った。それが何の肉か知らずに。今このときでも唱えている人は数人いるようだ、人の目に見えない世界的な戦争がもう既に始まっている、とね。おまえは信じたくないだろうが、今既に売られている数が少ないだけで同じようなことが行われている。新しい戦争の仕方だ。古い目に見える戦争のやり方の時代は終わった。新しい21世紀の戦争の幕がもうとっくに開けられているんだ。俺は怖がらせようとしてこれを言っていない。十二分に注意しろという忠告だ。21世紀の戦争で人々の理性を奪い正気から狂気へゆるやかに動かす方法はひとつではない、ありとあらゆる方法が蜘蛛の巣以上の複雑さで絡み合っている。その中の一つが肉食だ。俺が言うのもおかしな話だが、そこは目を閉じて笑いを噛み締めて聞いてくれ、肉食で人が凶暴化するとは言わない、しかし肉食を続けることで人が鈍感化することはどうやら起こっている、鈍感になるとは、理性と正気から離れてしまうってことだ、もっと言えば、他者の痛みに鈍感になる、他者の痛みに鈍感になるということは自分とまた自分の愛する者さえ良ければそれでいいと考えるようになるということだ、つまり利己的な部分が前に出てくるわけだ、だから全世界を征服しようと企んでいる世界一巨大な組織の者たちが肉を贈ってきたわけだが。ふう、俺が人間にこれを話すのも本当に馬鹿げているが、これも何かの因果なのか、その暗黒組織のやってること、日々行い続けている慣わしはよく俺たちと似ている、彼らは悪魔に魂を売った者たち共だ、つまり、毎晩、赤子の生き血を飲み、その死肉を食らい続けるという儀式を行い続けている黒魔術を操る悪魔崇拝の信者達だ、そいつらが自国の食料もままならないのに肉を送ってくるとはどういうことかおまえも薄々感づいているようだ、おまえが今想像しているナチスの強制収容所で行われていた光景、それがこの国の将来、行われるということだ、彼らが送ってきたのは牛肉ではなかった、牛肉と偽られた、人肉だ。気分が悪いなら少し時間を置こう。俺も馬鹿馬鹿しさで笑いを抑えるのが大変だ、まあそいつらは人間というより悪魔に近い存在だろうがな。ひと月に一人人間を殺して死肉を喰らいつづけてきた俺が言えることではないが。まあ聴いてくれ。それらはいったい誰の人肉か、単純だ、この世に不必要とされた人間達、全世界の犯罪を犯した人間達の死肉だ、それを日本中の人間が喰わされる、これはもしかたら家畜に新種のウィルスを投じることから始まった大仰な計画だったかもな、お前は昔ハムスターを飼っていたことがあるな、思い出してみろ、共喰いをしたやつがその後どうなったかを、すぐに死んでしまっただろう、原因不明の死だ、鳥類、哺乳類、人間になってくるほど遺伝子が近い生物の肉を食うことで狂ってしまうようだ、生が死になる瞬間に仲間の生き血をたらふく飲まされた死体は吸血鬼になるしかないようにね、この日本は終りだ、あと数年でな、生きてる者は貪欲に殺し合い、喰い合う未来があと数年で訪れる。悲しいか、恐ろしいか?でもこうなることは決まっていた。未来を変えることはできない。おまえが数年後に自殺する未来もだ。おまえが俺に泣き縋りついてくるとは思っていなかったが、もうほんの少しは、俺を希望としてもいいんじゃないか、確かに都合のいい救いとは大違いだ、お前は吸血鬼になればおまえの理性が緩むといえ、ひと月に死肉を一度は喰わなければその渇望には耐えられなくなるし、そうして何千年生きたところで最後には消滅して塵さえ残らなくなるのだからな、しかし吸血鬼になれば太陽以外は無敵のようなもんだ、化け物並みに力も付くし、暗黒組織も爬虫類人間も目じゃない、いつか訪れるかもしれないどこかの星の異星人だって降伏させられるかもしれん、ま、お前は無敵など望んでいないようだが。俺と一緒に来ないか」
「何故昨日は帰ってしまったの」
「おまえにはなんでも正直に話してやろう、昨夜は俺の気持ちが少し揺れ動いたからだ、しかしこの国の未来を思うと、やはりお前は俺に着いて来たほうがいいのではないかとね、考えはまたすぐに元に戻った」
「僕はあなたの言ったことを信じない」
「どれのことだ、俺の言ったすべてか」
「よく、わからない、悪いことをだよ、僕は悪いことは信じないんだ」
「何が悪いことか、おまえにはわかるというのか」
「それはわからないよ、けれど、僕はそんなこと起きて欲しくないんだ」
「未来の話か、気持ちはわかるが、このまま行くとこの未来は確実だよ」
「未来を変えられないなんて嘘だ」
「俺は嘘つきで構わないが、では変えられるというのなら、どうやって変えることができるか、おまえに想像することができるか。未来は誰が用意したものか?神か、悪魔か、それとも、自分達か、もし自分達で用意したと言い切るのなら、自分達で変える事ができるはずだ、おまえはそれをやっていけるか、今までのように利己的に生きていて変えられるのか、何一つ犠牲を払わずして変えることができると思うのか。ふう、今日の俺はどうも変だな、よく考えると俺が言える筋合いではないな、感情的になってしまった、すまない、いったいどこにこんな腐った感情があったのだろう」
「僕は少し目を瞑って考えたい」
「ああ、そうするがいい」
僕は目を瞑った。気付けば僕はこの国の未来の地に立っていた。そこらじゅうに人の屍骸が転がっている。赤子から年寄りまで皆服をちぎられて体中食い荒らされた跡がある。僕は恐怖に震え上がり、腰が抜けて血溜りの上にしゃがみ込んだ。血の溜りに僕の顔が映った。僕は気付くと血溜りの中に顔を突っ込んで声も出ないのに謝り続けていた。飢えがあるようだった。心で何度も謝り続けながら僕は食料を必死に探した。死体を踏みつけ、血のぬめりですべって転び血だらけになりながら涎を垂らして探し回った。人だ!いたぞ、僕の食べ物、走って走ってやっと追いついた。後姿の人が突っ立っている。僕はその人間の肩に手をかけた。その人間はゆっくりと振り返った。振り返った人間は無表情の僕だった。

目が覚めると彼の姿は消えていた。
窓が開け放たれている。夜は冷たい空気で僕という食料を冷凍したがっているように僕を冷やした。

暗黒の野

目を覚ますと、誰もいない。
夢ではあんなに色んな人と交流してたっぽいのに、この現実のざまはなんと嘆かわしいことでしょう。
交流したい人が誰一人おらないのである。
つまりこの高潔な俺の話し相手にふさわしい人が何処にもいてない。
なんと悲しいことでしょうね、おほほほほ。
俺はだから毎日18時間眠ってる。
夢の世界のほうがずっと楽しい。
あらゆる経験もできるし有意義かつ無価値である。
俺の信念だ、何より有意義で、何より無価値であれ。
矛盾してるとかゆうやつは死んでいいよ?
はっ、低級な人間には理解できないことだ。
俺は高級な人間で在るが故にその苦しみも高級な苦しみであるのは確かだ。
俺はこの苦しみから早く抜けたいので死を望む。
しかし自殺はしない。
俺に似つかわしい死は、ゆるやかな死である。
そんなことゆうたら誰もゆるやかな死の生を生きてるんちゃうん。
そう人は言うだろう、NON!BAKA/TARE!
違うぅっ、人々は死にたくないのにそのゆるやかな死へ押し流されているだけではないか。
俺は本当は長生きで健康的に生きられるのだが、あえて死を望むのだ。
そしてそれは自ら与える突然の死ではなくして、ゆるやかな自殺と言えよう。
そうして、どうしたら美しくもゆるやかな自殺ができるのかなぁ、と僕は思いました。
明日から家畜の死肉喰らう?いやんいやんそんな醜い自殺。僕にふさわしくない。
明日から酒だけで生きる?いやよいやよ汚い自殺。僕にふすぁわしくない。
明日からヤクだけで生きる?オーマイベイビー。急速な自殺になりそうだ。
明日から教会へ通う?己れの罪を直視することで拒食、酒とヤク浸り、私を殺す気か。
俺はなかなか美しいゆるやかな死の方法が見つからなかった。
僕は怖くなって汚くて臭い布団に潜り込んだ。
僕を緩やかに殺す方法が見つからないよ。
電気を豆球にしてその淡い電球を見上げていた。
気付くと僕の側に知らない男が立っていた。
男は僕に呼びかけた。
「俺が力を貸してやろうか」
僕は寝ながら応えた。
「誰だか知りませんがいったいあなたに何ができると言うのでしょう」
「ふふ、俺が考えた一つの案をおまえにやろう」
「さて、それはどんな案でしょう」
「お前は今日から吸血鬼となって毎晩人の生き血を吸って生きればいい」
「それが、美しい緩やかな死だと、言うのですか」
「ああ、そうだ、これ以上にはないだろう、何故美しいかわかるか」
「それは神に背を向けた行為であり、また人から恐れられている存在だからでしょう」
「それだけではない、我ら吸血族は本当に死ぬことができるからだ」
「それはどういう意味でしょう」
「おまえはまだ知らないようだが、人間は永遠に生きる、いや、すべての生物が形を変えて生きつづける、しかし吸血族は違う、我らだけが永遠に死ぬことができるのだ、もっとも、一時の情で死を選び死んでしまった者は後悔することさえできないが、我らは永遠の消滅を望みながら、同時にそれを恐れ、永遠にこの地上で生きつづけようとしているわけだ、どうだ、人間にこのような感情をもつことができるだろうか、所詮思ったとしても、それは偽りなのだ、人間は死ねないのだから」
「確かに人間は愚かで醜い、死ぬこともないのに死があるのだと思いこんで恐れ続ける」
「おまえは賢い人間だ、だからこうして我々の一族に迎え入れようと俺がここへ来た」
「どうしたら吸血鬼になれるのです」
「特別、おまえに詳しくその方法を教えてやろう。お前はまずおのれの手で己を殺し、死が訪れた瞬間にこの俺がおまえに新鮮な人間の生き血を口移しで飲ませる。そして俺が死体のお前を屍姦する。それだけだ」
「どこかで読んだことがある、黒魔術で死体を蘇えらせる方法と似ている」
「これは人間でも悪魔に魂を売ったものはできる方法だ」
「本当に死んだ人間を蘇えらせることができるなんて」
「正しくは、人間が行った場合、生き返るのは肉体だけだ、魂は戻せない、死体を死体として生き返らせ、その身体に見合う、腐った低級の魂が入り込み動かせることができるだけだ、しかし吸血族がやった場合は魂もそのままで生き返らせることができる、その魂に幾分、野性の血が目覚めるだけだ。どうだ、吸血鬼になれば何より美しくゆるやかな死の中を永遠に生き続けることができるぞ」
「ゆるやかな死を生き続けて、そして最後には永遠に死ぬの?」
「それは自由さ、何が何でも生き続けたければ生き続ければいい、誰かに無理矢理太陽の下に連れて行かれることもなければ生きつづけることができるだろう」
「人間達がいつか滅びてしまえば?」
「そうなればその他の生物の血を吸うしかないだろうな」
「すべての生物が死に絶えてしまったら?」
「食料がなくなれば、まあ、死ぬしかないだろう」
「永遠に?」
「そうだ、永遠の消滅、永遠の忘却、永遠の安らかなる眠りだ、それも悪くはないのかもしれない」
「永遠の忘却・・・・・・・」
「何一つ思い出すこともなければ、何一つ思うこともない、始めから何もなかったように何もなくなる」
「あなたは何故吸血鬼になったの」
「なんでもない、ただ側に吸血鬼がいると知らずに自殺しただけだ」
「いつ自殺をしたの?」
「はっきりとは憶えていない、大体3000年ほど昔だ」
「誰か愛しい人の記憶は?」
「ははは、随分俺のことに興味が在るんだな、もう3000年も生きてるから忘れてしまったよ」
「嘘だね、いつも僕の目を見続けて話してきたあなたが初めて目を逸らして何かを想っていた」
「何が言いたい?おまえの願いから大分とずれて来ている、おまえの願いが揺れ動いているのは知っている、おまえの複雑な思いを知らないで俺がやってきたわけじゃない、しかし言っておくが、いや、おまえも重々承知のことだろうが、おまえにはこれから想像を絶する程の層一層苦しい日が待ち受けている、そして、そのいくつもの日にお前は必ず、自殺を選ぼうとするだろう、それほど耐え切れぬほどの苦しみだからだ、一応言っておこう、自殺者がどのようなところへ向うか、想像するがいい、それは見渡す限りの暗黒の野、それが自殺した者が行く世界だ、その霊によっては、永遠に抜け出せないと絶望し、5000年近くその真っ暗闇の世界に居続ける事もある、俺は思うよ、絶望して死んで、その絶望以上の絶望が待ち受けている世界で何百年何千年生き続けるより、餓鬼道に堕ちた亡者の如く、人間の血を飲み殺して死肉を喰らって地上で生き続け、しまいには永遠に消滅するほうがまだいいんじゃないかってね」
「あなたは悔やんでる、吸血鬼になってしまったことではなく、自殺してしまったことを、今でも」
「おまえにはそう映るようだな、おまえは人間の情を持っているから、俺はとっくの昔に失くしたよ、そういった役立たずの情は、自ら捨てた、さあいい加減決めてくれ、生き血を採る獲物を見つけるのも少し時間がかかる、おまえが自殺を決めたら俺が探してくるから」
「少しだけ目を瞑って考えたい」
「ああ、そうしろ」
僕は目を瞑った。目を瞑ると、気付けば僕は暗黒の野に立っていた。何処を見ても真っ黒で地面と空の境界もわからなかった、僕は真っ黒な地面を走った、音がしなかった、地面の感触もなかった、自分の姿すら見えなかった、自分の身体はないようだった、ただ暗黒を見ることのできる目と鮮明な意識だけがあるようだった。僕は悲しくて泣いているようだった。どんなに泣いても何の助けも来なかった。誰かいないか!僕は声を出そうとした。声は出なかった。心で僕は思った。彼は僕の未来を知ってたんだ、こんな未来を。僕の未来がここにあるなら、彼の未来もここにあるかもしれない。僕は探したい。彼の未来を、そして救いたい、この広い闇の中のどこかに在るはずだ、永遠の眠りが眠っている、永遠に忘れた彼らが眠っている、僕はそれを見つけるために、僕の未来がここにあるのだろうか。

目を覚ますと、彼の姿は消えていた。
窓が開け放たれていて、寒い冷気が変に温かい風のように僕の身体に触れた。

肉串ろ

肉が食いたい。できれば人肉が食いたい。僕には最早魚以外の肉は人肉と同じようにしか映らなくなったが、僕はできればいたいけな動物が殺されてほしくはない。僕はどうしても人肉が食いたい。いや、喰ってやりたい。家畜のように拷問にかけてから生きているうちに解体して殺して喰ってやりたい。人を殺して内臓を引き摺り出してモツ煮込みを作って食べたい。日本酒でくっとやりたいな。ホルモン焼きもいいけどな。とにかく人が食いたくてたまらない。動物を食うよりずっとマシだ。人間は人間を喰うべきだ。人間を食料とするべきだ。そのほうがずっと正気だ。人間はどこまで堕落してゆくのか。俺は間違っていた。人肉を喰うことよりも悪なのは家畜を他人に殺させて喰うことだ。仲間を食うことより悪いのは動物達の痛みと苦しみから目を背けて喰い続けることだ。肉が喰いたい。できれば人肉が。今日は自分の左腕を骨付きカルビのようにして焼いて食った。美味かった。んまかった。だからこれも右手だけで打ってる。不便だ。明日は左の目玉をくり抜いてアツアツのご飯の上に乗っけて卵がけご飯のようにして食おうと思ってる。あさっては両耳を切り取って穴の中に冷凍しておいた左手の部分をミンチ状にしたのとキャベツのみじん切りの具を詰めて餃子ふうに焼いて食おう。タレはラー油とポン酢だ。俺は酢が効いてるのが好きなので酢をちょっと垂らすけどね。ま、ゆうたら酢醤油ですか?しあさってからは片足ずつ約4センチ程の輪切りにしてビーフシチューとか、いや、人肉シチューとかにしていろいろな料理にして喰っていこうかなと思ってる。でも右足は串刺しで食うたろ。そのあとは腹を開いて盲腸を引き摺り出してモツ煮込み、またか、かぶるなぁ、どんな料理がええんやろ、その次は腎臓と肝臓を半分ずつ切り取ってレバニラ炒めに決定だけどな。久しぶりに喰うから楽しみやわ。久しぶりの肉、約二年弱ぶりの肉やわ。美味いやろナ。わくわくしてきた。って今日腕食ったんやった、忘れてたわ、ひょひょひょひょひょ、ぽろろろろろ。レバニラ炒めって汁が出る前に高熱で炒めるのが美味いよね。高温に熱した鉄のフライパンで俺の内臓をジャッてな。ジャッてな。ジャッ、うふっ。うぷぷぷっ。俺の腎臓と肝臓を食ったら俺の腎臓と肝臓はたぶん元気になるだろう。実に健康的だ。その次は頭蓋を半分上部切り取って頭蓋の器で脳味噌ラーメンなんて洒落てるな、よし、それでいったろ。腹の肉はサーロインステーキにして喰おう。で最後はやっぱし心臓を薄くスライスしてレバ刺しふうに生で食うのが乙かな。己よ、乙。そう言って俺は死に腐った。闇の中を浮遊する幽体となって俺は思った。大腸はやっぱりもつカレーにして食えばよかった、しまった。ちょっと匂いと味がアレやったけどカレーの大量のスパイスで誤魔化せたかもしれなかった。もう一度生まれ変われるというならば、今度こそ、是非、俺の大腸はもつカレーにして喰いたい。

ハライソから

今何時?と起きて時計を見たら午前0時を回ってる。おかしいな、今日は朝の6時には寝たはずなのに。寝ても起きても難聴が悪化したままだ。枕は抜け毛だらけ、敷布団の裏はカビだらけ、最近不整脈が甚だしい、俺はどうしても部屋で一人で死ぬわけにはいかない、突然死するわけにはいかないのでどうか僕を呪い殺さないでください。僕は本当に些細な喜びすらことごとく奪われてゆくんです。この生き地獄をほんのちょっとでも魔儀らワッセル、紛らわせることが次々と無くなって行くんですよ、わかりますかー?わかりますかー?それがあなたに。って、あっ、すみませんすみませんすみません。僕は決してあなたを呪い殺さないので僕のことも呪い殺さないでください。僕は最近、朝にぜんざいを食べるのが好きです。でもちょっと味が薄かったりすると悲しいかな。俺はこの生き地獄に戻ってくると何者かから絶大な賞賛を与えられ、また鼓舞されているような気がする。つまりそれは俺の脳内にいる悪魔たちを喜ばせているのではないかと俺は思うと狂喜乱舞する。俺はここにい続けなければならないと感じる。死ぬまで、死ぬまでこのインフェルノに。でもこの地上は全ての人間にとって地獄以外の何ものでもないのではないか。たとえ幸せと感じて過ごしていたとしてもだ。それは幸せと感じてしまうことの苦しみが自分のどこかでもがき苦しんでるのではないか。俺にはそれが見える。全ての人間は地獄を味わい続けているのだと。美味いと幸せを感じて頬張るその食卓の肉が陰惨に拷問された挙句殺された死肉であるのと同じように。どこに行っても地獄だ。僕たちは地獄に産まれてきたんだよ。まだまだ自分の気付いていない地獄がある。恐ろしいかい?抜け出したいかい。ならば善人になってとっとと病気や事故にでもあって死ぬんだね。善人になるほど地獄で苦しむ必要性がなくなってくるから早めに死ねるのさ。俺がこの生き地獄から脱出するには善人になるほかない、でないと120歳まで生きかねないぞ。俺は早く死ぬために今日から善人に、そうだ、いい人間になろうではないか。会う人会う人と当たり障りのない雑談、べんちゃら、相手に不快にはさせない気の利いた言い回し、相手を持ち上げる話術、馬鹿真面目は捨てて相手に合わせるやり方で、そして心では人を見下し嘲笑い哀れに思う。完璧ではないか、これだ、これこそいい人の典型的な姿だ。俺もそうなろう、そして早めに死ぬのだ。そして天国から俺を馬鹿にした奴全員に対して囁き続けよう。俺を馬鹿にした奴は全員、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、これはつまり早く善人になっておまえらも早死にしろよ^-^、っていう愛の言葉である。俺のことを嘲笑った者は一人残らず全員早く死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、祈ってやるよ俺がおまえらのために早く死んでハライソからな、でいでいはらいそはらいそ。小鳥のような囀りで一日中おまえたちの耳の奥に囁き続けてやろう。これでみんなも幸せになれる。なんて幸せなのかしら。ああ、死んでしまえ、ああ、死んでしまえ、ああ、死んでしまえ、そう囁き続けていると皆怪奇的な変死をしてしまった。私は部屋の隅に蹲って震えていると死神に見つかりインヘルノへ突き落とされた。枕と布団は抜け毛だらけ、敷布団の裏はカビだらけ、足の踏み場もないほどゴミやモノが産卵した部屋と廊下、そのゴミとモノが産卵した卵を踏みつけてプチュッという嫌な音を聞きながら過ごすここはまさしく地獄であった。俺は全てに呪いを馳せた。死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、死んでしまえ、そして抜け毛だらけの布団の上でのた打ち回りながら叫んだ。死んでしまえ!死んでしまえ!死んでしまえ!自分の罪が自分から抜け出たような解放感に満たされた。そして部屋のドアを誰かがノックした。私はドアを開けた。そこには私の罪が立っており、私に向って天から降りてきた天使のような美しい声で囁いた。





「死んでしまえ」




エデンの血

2014年、死にたいよ。吸血鬼です!待ちに待った吸血鬼、僕らの園にもやってきたよ。

彼女は青く光る剣を振り翳すとわたしの左腕を切断した。
するとその断面から可愛い芽が顔を出し、その芽はすくすくと成長しやがて大きな樹となった。
その樹はやがて人間の掌ほどの大きさまで育つ赤い実をたくさんつけた。
最初にその実を手にとって食べたのはアダメという男であった。
そしてアダメはエヴという女に向って言った。
「ちょうわれ、これ食うてみィ?ごっつい美味いさかい、甘いし、今が食べごろやでこれ、いや、ほっんま美味いって食うてみって」
エヴはアダメに向って言った。
「ほんまかいな、でもこれ禁断の果実ちゅて言われとったんちゃうの確か、ええんかいな食うても、ええの?ほなおひとつ食うてみたろうかしら」
二人が赤い実を貪り食う様子を陰からサタンとそのゆかいな仲間達は静かに眺めていた。
赤い実はよく見ると人間の心臓の形をしていた。
エヴは赤い実を頬張るアダメに向って言った。
「われ口から血ィ滴っとんで、どないしたん」
アダメは口の周りを手の甲でぬぐうとそれを見て言った。
「うわっ、ほんまや、なんやこれ血ィやなほんま、ってことはこれ生きとんのかいな、って植物も生きてますけども、あれか、つまり肉的な生き物なんかな、これってば、匂いもそういや生ぐっさいしな」
そうしても赤い果実のあまりの美味さに手が止まらないアダメとエヴであった。
血の味と血の匂い、まさしくそれは人間の心臓を食うてるかのようであった二人はいつしかとてつもない飢えを覚えるようになった。
赤い実を食うて数分間は満腹度がものすごく気持ちも陶酔するような気持ちのよさに浸れるのだけれどもわずか数分が経つと胸を掻き毟り目に血管が浮くほどの飢えを感じるようになった。
アダメとエヴの子孫達は赤い実がそばにあれば赤い実を手にとって食うたが、赤い実が近くにない場合は同じ匂いと味のする人間の血を吸い、また殺して死肉を喰らうようになった。
赤い実のなる樹はたくさんそこらに生えていたがそれでももはや次々と増えていく人間達の食料として足りなくなっていった。
アダメとエヴの子孫達はそうして吸血鬼となっていった。
何故なら赤い実には手を出さずに善良な心持で生きている人々が血と肉に餓えた人々のちょっとした良い考えによって、吸血鬼となっていったからである。
それはどういうことかというと、もう何人殺したか覚えてもいないほど殺して死肉を喰らい続けた者がまず吸血鬼となり、吸血鬼たちはこのまま人を殺して食い続けると将来人が少なくなってしまって良くないのではないかと考え、一本の樹を倒したら一つの苗を植えるようにECOになろうという気持ちで一人の人間を殺したらその人間に自分の血を与えて吸血鬼として蘇えらしてやろうというささやかな思いやりであった。
気付くと、全員が吸血鬼となっていた。みな毎日飢えに餓えていた。
赤い実が大分足りないのである。
切り落とされた左腕から生えた赤い実のなる樹はどの樹よりも大きな樹でわたしはいつもそれに群がる小さな吸血鬼たちを眺めるのが好きだった。
サタンとそのゆかいな仲間達も黙って影からそっとその光景を眺めていた。
その時である。イーストゲートが開いた。エデンの園の東にある門である。
その門はいつでも閉じられていて未だかつて開かれたためしがなかった。
その門の前にはいつも門番の頭が水車の車より大きな顔のどでかいおっさんの頭だけが火の車となって回り続けていて、その上には交叉しながら回り続ける自動回転式の二つの大きな銀色の剣があって、到底開くことは敵わなかったのである。
その東の門が開いたことに最初に気付いたのはサタンとそのゆかいな仲間達と、それから吸血鬼のおもに年長者達数名であった。吸血鬼は不老不死であり、ある程度成熟すると年をとることがないので年の一番行くものは4529歳であった。
彼らはとてつもない速さで飛ぶとその東の門の中へと入っていった。
するとすぐさま東の門はまた静かに閉じられ、門番が前にはだかった。
入ることのできなかった多くの吸血鬼たちはそれを知って、みな口々に嘆いた。
「おいー」「なんでやねん」「んなあほな」「うどんが食いたいのにー」「神よ」「ガッデムー」
がんばってもみたのだが、わたしが赤い実のなる樹を増やす速さ以上に吸血鬼たちの人口が増えていくほうがはるかに速かった。
毎日が赤い実の取り合い奪い合い吸血鬼たちは暴力的になっていった。
何故、このような世界に、わたしは時に思った。わたしは過去の記憶を持っていなかった。
彼女が青く光る剣でわたしの左腕を切り落とした瞬間何もかも忘れてしまったようだ。
今となっては彼女という存在がなんであったのか思い出すことはできなかった。
そうしていくつもの日が落ちていくつもの日が昇った後の日にエデンの東にある門はまたもや開かれた。
今度はいっせいに吸血鬼たちが駆け込んだ。ほぼすべてがその園の中へ入ったのではないかと思われた。
吸血鬼たちは息を呑んで驚愕した。驚きのあまりある者は失禁して、ある者は脱糞した。
吸血鬼たちの目の前に広がるエデンの園の風景はあまりに美しすぎた。見るものすべてに淡く暖かい陽が降りているのを見た。
ある者は失禁すると同時に絶え間ない涙を流した。
ある一人の吸血鬼が放心状態で呟いた。
「こんなに美しい世界があったなんて」
ある一人の吸血鬼は溜め息とともに声を漏らした。
「いったい、僕らの見ていた景色はなんと暗くさびしい景色であったろう」
吸血鬼たちは口々に呟いた。
「僕らはここで暮らしたい」「やり直そう、この美しい園で」「そうだ、やり直せるはずだ、もう人間達を殺すのはやめよう」「きっと煙草と一緒で一ヶ月我慢したらもう血が欲しくはならないかもしれないしな」「そうさ、俺たち、また人間に戻って暮らそう」
そう決心した吸血鬼たちはみな断固として一月の間、耐えに耐えて人間を殺すことはなかった。
しかしひと月経ったころから体内のすべての血が沸騰し煮えたぎっているかのような凄絶な苦しみと渇望から、吸血鬼たちは人間達を殺して血を吸い、死肉を喰らい始めた。
半月ほど経ったころ、人間達の数は半分以下にまで減り、代わりに吸血鬼となって増え始めた。
そしてどんどん人間達が殺されていき、三分の一までに減った頃である。
その時、天から声が轟くように響き渡った。
「これまでです。血をこれ以上流さないように。新しい星があなた方の頭上に昇る。今日からこの星があなた方の母のようにこの園のすべてを見守りつづけるであろう」
そう声が鳴り止んだ瞬間であった、エデンの東の空に見たこともない眩しく目を開けて見る事すらできないほどの光り輝く星が現れ、すべてに光は隈なく注がれた。
その瞬間に、吸血鬼たちすべての者の絶叫が鳴り響いた。
吸血鬼たちは皆、「ヴァンパ・イヤー!」と叫ぶと一瞬にして塵と化してしまった。
しかしサタンとそのゆかいな仲間達に素早くかくまわれた幾人かの吸血鬼たちは無事であった。
サタンとそのゆかいな仲間達は生き残った吸血鬼たちを森の奥の地下の館にある棺の中に寝かせた。
エデンの美しい東の園は灰色の塵が舞い続け、このままではみな喘息になってしまうので人間達は「めんどくさいなー」と言いながら箒と塵取りを持ってきて塵を集め、鋼鉄の箱の中に入れて、もし蘇えると良くないので鍵を閉め、「もうこれ以上掘るのはちょっとしんどいわー」というほどの地下深くまで掘り、その土中に埋めた。

生き残った吸血鬼たちは夜には目覚めて町に出かけ、そっと人間達の血を吸い、または殺して死肉を喰らった。
一人の吸血鬼が吸血鬼たちは滅んだと和やかに暮らす人間達を眺めながら言った。
「彼らは何故人間で、私達は何故吸血鬼であらねばならないのだろうか」

苦しむ吸血鬼たちを静かに見守るサタンは少しうつむいて自分の左手に目をやると森の奥のほうまで飛び去っていった。