もう駄目だ、助からない。あとの一頭も、家よりも大きいこんなに巨大な身体なんだ、生きることが強くても死ぬときはあっけないものだった。二頭死んだ、一匹は巨大な象でもう一匹は巨大な河馬のような生物だ。そしてあと一頭・・・・・・。誰かが死んだ。
僕はそうチャット部屋で呟いた。その発言を見た麿は心の中で僕を責めているような気がした。
でもそれは二頭が死んで僕がなんとも思っていないことを責めたのか、それともあとの死んだ一頭が誰だったかを思いだせないことを責めたのか僕にはわからなかった。
残った毛の生えていない巨大な哺乳類たちは自分たちで非難しようと準備をしだした。
切断された傷らだけの指を痛々しく垂らして。白い巨大な塊がのそのそ動く。
道は真っ暗だ、でもどうしてもそこへ行ってしまう。
枝分かれした右の真っ黒な蛭のような坂道を上ると右手に見えるはずだから。
夜景でもない車のライトでもない何とも異なった光る群のようなもの。
それは生きてるのか死んでるのか知らない。
僕は自分の家族を抱えてる。でも確か血は繋がっていない。
若い僕のお父さんと若い僕のお母さんと、そしてまだ幼いその子供達を僕は抱えてる。
死なせるわけには行かないのに。
道の向こう、そうだ、明るいのはあれのせいなんだ。
もう、このときがやってきてしまったというのか、生き物のようなそれが。
右手の場所、それは富士山よりずっと大きい、僕らを見てる、闇の中に高く聳え立った鉄塔はぐねぐねと動いている。
その巨大な身体は水色に光って点滅している、ずっと見ていたい色をしている。
その鉄塔の下に行くほど大きくなった体内を地面から突き上げるように濃く真っ青な青の青をした稲光が美しく鉄塔の喉元へ向かって突き走る。見惚れてしまうほどの美しさだ。
今にも巨大な鉄塔はその両腕を伸ばし僕らすべてを包み込みそうだ。
そう、それは、闇の手、彼は生きている。
とうとうこの日がやってきてしまったなんて、そんな、でも、僕の記憶がそう告げている。
それが現れたら、もう、終わりの時なんだ。
この地上は末期だ。
でも一体、僕のどこの記憶なんだろう。
恐れたらいけない、怖れたらその通りになってしまう世界だから。
どこかに誤差があるはずだ、きっと。
またあの道へ行ってしまう。今にも動き出しそうな急な短いうねった真っ黒な坂道。
きっと見える、上って右手に光って僕を呼ぶ群れ、あれはきっと死んでるのかもしれない。
僕の目にまだ見えない。
とにかく非難をしよう、僕たちも。
僕には守らねばならない存在たちがいる。
狭い工場のような場所に僕らは全員非難をする。
たくさん工具がそのまま置かれてある場所に僕らは飲み物や食べ物を鞄から取り出して置く。
すぐにまた別の場所へ避難できるように、「鞄から出したらすぐ鞄へ戻すようにしたらええねん、ほなすぐ出れるやろ?」と僕はいい案を出す。
若いときのお父さんも若いときのお母さんも幼いその子供達もみな元気だ。
でも何より守りたいのは子供達だ。
子供達だけは死なせるわけに行かない。
でもあれがやって来てしまった。
あれは僕らすべてをなくしてしまおうとしている。
でもその先の記憶がない。
そのあとに何をしようとしているのか。
あの稲光はもしかして僕らを見ていないのか。
あれも生きてる。
何をしようとしている。
何かを生み出そうとしてる?
僕らのなくなったあとに。
あれはそうだ、そうか、今この世は臨月、いや、既に陣痛は起きている、胎動がここまで激しいんだ、もうすぐ産まれる。
そういうことか、何かがもうすぐ産まれる、いや、産みだそうとしている、何かが何かを。
僕らこの地上のすべてを犠牲にして、何かを生もうとしてる。
僕らを解体して懐胎するんじゃない、僕らの生まれる前からそれは受胎していた。
何故?僕らはもう生きていけないのか。
守りたい存在たちをも生かせることはできないのか。
僕らと交わることなく妊娠だって?
一体、何の子なんだよ、それは。
僕らすべての生命の価値を以ってしてもその価値には及ばないのか。
このときが来るのはもう決まっていたのか。
闇でも光でもない存在を、産み出してしまうのか。
もう僕らには、何も出来ないのか。
生まれてこようとしているそれを殺すって事は、僕らを殺すってこと。
僕らの種子を持たないその命が・・・・・・。
一体何処に繋がりがあるというのか。
教えて欲しい、どうしたら僕らが繋がりを感じて死んでいけるのか。
その、得体の知れない存在と。