尤物

尤物が俺を支配していた。
尤物を俺は支配していた。
巨大なコンパスの針が死んだ木で出来ていた。
蹴り倒すと木が折れた。
破片が俺の肺に刺さった。
ごっついこと、痛かった。
俺は刺さった木を針に見立ててくるくる回ってみた。
止まることが怖くなっちっていつまでも回っていた。
ぐるぐる回転世界に俺が回っていて錦金魚の胸鰭。
俺の胸をかすめた、痛いっちゅうねん、お前なあ。
肺に木が刺さっとんねん、前通らんといてくれる。
日脚が残りご飯の物悲しさのような顔をして過ぎてった。
なんで昨日の日の光を貴方は残したのですかって言われて。
食べられなかったんですって回りながら俺は応えたのだけど。
そんな多い光じゃなかったよねって言う顔をしてまた過ぎてった。
何日回っとんねん俺、バニラアイス、ああそうか季節を先取りして。
俺はぐんぐん速度を上げて思ったんだ、このまま早く回っていくと。
俺の死ぬ日に追いつける。
死は俺に追いつかれる。
すると俺はそれを支配することが出来るだろうから。
俺の支配物が増える。
俺の死肺物が増える。
俺の死灰物が増える。
そして俺がそれをあまねく支配したら。
今度はそれが俺を支配してもう戻れないだろうから。
それは回り続ける、ふと止まって見ると。
灰の降り積もった地面に一本の死んだ木が刺さっていた。
関連記事