人は知るが内にも知らない内にもこれをやって生きてるのではないでしょうか。
当然勝ちに行こうと行くわけなんですけど、
その結果結果結果のない道すがらと言いましょうか、果たして、
これは勝ちなのか負けなのかと、ふと思うわけであります。
無意識にも勝ちに人は行くわけですけども、何が勝ちなのか、
さて人はわからなくなってしまう秘境よりも深い阿弥陀籤の如くの人の生と書きまして人生となります。
でもここで人は結句、何が勝ちで何が負けかわからないのだからええぜ。
とはなかなか思うことが出来ない為人(人と為り)を持ち合わせているので御座いましょうか、
もう苦しい、ああ苦しい、どうにも苦しい、やれん、やれんよ、こんな日々はもう。
と苦しみ嘆いては、この苦しくてたまらん状況に今、俺がおんのは間違った判断、つまり負けを引いたからか、
などと脳内で懊悩煩悶しては、悩み尽くし、悩みづくしの朝と昼と夜を生活して寝る時間をその間に設けるわけで御座います。
あの時あの分あの秒にあないなあほな事、しとらんかったら、こないな痛苦居た堪れない情況にはなってへんかったやろうと思われるはず、ああ〈俺のすかたんすかたんすかたん〉(←っていうのは僕の師匠の町田康がゆうてたからぱくりましたけども)と、そのような苦境に至って人は一体、如何すればよいので御座いましょうか。
これはしかし、後悔の念から来る苦しみとは違い、
勝ちか負けかわからんのに、苦しいことそのものが俺を苦しめるのであるから、どうも苦しいて、なんともちょっと救われたいと思ってしまうその人情に人はもがき苦しむ因果が、
いつまで続くのかと、いつまで続くのかと、いつまで続くのかと、思って苦しんでる俺、いやあ俺、俺が今ここで苦しんでいるという、これこれこれ、これ?もしかして、あの時あの分あの秒俺が欲しがっていたもん、だと思えたら、もうこれは勝ちだと、思ったらええものを、
いくら勝ちだと思えたとしても、苦しくて堪らないから、楽になりたい、もう少し、そうだ楽になるために選んで行ったはずのそれだから、やっちゃったあれだから、でも今のこの苦しみを思うと、あのときよりどうも苦しいようにしか思えない、楽が勝ちで苦が負けだとは思ってませんけども、
やっぱ、あの時あの日あの夜あの俺、間違ってたの?って思うこれ人情なんでしょう、どうにもならないこの思い、苦し紛れで掴んだものそれは、
新しい次の為業、であった。
とにかく為すがまま、悩む暇は、ありません、潔い賭け、これや、俺の待ってたもん、この分かれ道、が俺の前に立ちはだかった。
右か左か、楽な道の方を選び取って、何も考えず悩まず、あ、こっちのほうが楽やろ、まあ、と瞬間的に感じたほうの道を選んで歩きました。
人の気持ちは、二の次だった。
俺は今回右を取って、その選びにより誰が苦しんでも、俺はもういいと思ったのです。
誰より、俺を楽にさせることが先決であり、それによって誰かが苦しむのはやむを得なかった。
だから憎まれても怨まれても仕方ないと俺は思ってる、わかってるけど、
あれ?でも待てよ?うわ、めっさくっさ苦しいこの今は何?俺はもう本当に苦しかったから右を選んだ、その道の先は真っ暗でありそれでも歩いてゆくしかないのはわかってんねんけど、歩いてゆくほど道が暗くなってって闇に近づいていく気がするのはなんだろう、怖い道だ、先へ進むのが恐ろしくなって俺はがくんと項垂れ地面の上に四つん這いの形でじっとしているとふと地面に一本の蛇の太さほどの縄がその暗闇の向こうから引かれているのに気付いた俺は、潔い賭け、と脳裡に浮かび、何も考えずにその縄を引っ張った、するするするする引いた、案外それは軽かった、軽くもあったが手応えのありそうな重みを有していた。
しかしするするするするという引き具合から途中ずるずるずるずるという引き具合に変わってった。
あまりに重くなってきて、汗を垂らしながら、また一体何を引き摺ってこんなに重いのかという恐ろしさから、心苦しくてしょうがなくなり、俺はつい後ろを振り向くのだが、後ろには道がないのである。
とうとうその重さはびくともしないほど重くなり俺は自分の周りにとぐろを巻いた牡蛇と伸びて曲がりくねった牝蛇の交尾の絡まりのようになったその縄を見つめて呆然とした。
そのときである、その縄がするすると闇の先のほうへ引っ張られていくのである。
俺は絶望的な思いでそれを観ていたが、危険な賭け、と心の内で言ってからそのするするするする引かれてゆく縄の残りを自分の体に巻きつけていった。
俺の体重でどうにか引かれるのを止めようとしたのである。
ところが俺の体重はアホほど軽い、米一俵よりずっと軽い、ぐぐぐっとまた四つん這いになって地面に指をめり込ませ耐えに耐えたが、ずるずるずるずると真っ暗で何も見えない向こうから引っ張られて引きずられる。
いったい誰が引いているのか、恐怖のあまり俺は自分の危険な賭けが間違っていたんだと即考え直し、ぐるぐるに腰の辺りに巻きつけた縄をほどこうとした。
それがその結び目がまったくゆるまず一向にほどけそうにない。
腹は苦しいし腹も減った、だんだん道が暗くなってきて恐怖に似た寂しさを感じて、あ、そうだ、縄を噛み切ればええんやと思った俺はぎりぎりぎりぎりと縄に噛み付きそれを噛みちぎろうとした。
ぐぎぎぎぎぎぎぎと噛んでんのに全然縄は何で出来ているのか全く変化の見えない。
俺はひきずられながら思った。俺はこのまま闇の中に入ってってどうなんねやろか。
闇の先に何かがあるならええけども、どんどん濃い闇になっていくのだとしたら。
俺は間違っていたというのだろうか、この道を選んだこと。
俺は確かに相手より自分を選んだ、その選んだ道の先、俺は考えなかった。
考えずに選んだんだから、でもどこかで俺は期待している自分があった。
相手を苦しめて自分が楽になり、その上で期待していた。
俺を悦ばせるものを。
今思うんだけれども、俺をずるずるずるずる闇の底に引きずりこもうとしている者。
俺の期待しているものじゃないのか。
その、この重さとは、俺の期待の重さじゃないのか。
俺は自分の重さ以上の期待を抱いてしまっていた。
自分のやったことで報う重さ以上のものが訪れると望んだ。
俺が今、期待をするのをやめたら、この引かれるのは止まるはずだ。
期待をした俺は間違っていた。わかっていた。わかっていたけれど。
いや、わかっているけれども、一体どうすればこの期待をやめられるんだ。
おい、誰か、おらんのか、どうしたら俺は闇に引きずり込まれなくて済む。
教えてくれ、俺は間違いを認める、認めるけど、なんで期待を止めることができないんだ。
俺はこのままじゃ、俺が抱いた期待の餌食になって、闇の中で喰潰されるのか。
いったい誰がいるんだ、そこに、俺を引いてるやつ。
いったい俺は何を期待していたんだ、誰の何を。
いったいそんな人間がどこにいるんだ。
そんな都合のいいだけの期待通りになる人間が。
そんな人間はいるはずがない、どこにもいない。
どこにもいない存在を俺は期待していた。
ってことは、ってことは、俺を、俺を今引っ張ってるやつ。
どこにも、おらんやつやん。
どこにも、おらんやつに俺は闇の中で喰潰されて死ぬのか。
そんな。
やれん。
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