好きな女の子がいて、ぼくは、ぼくは、好きだってこと、言った。
小さな女の子、ぼくも小さな男の子だったけど、勇気出して言った。
女の子は、無言だった。
女の子は、無表情でぼくに指図した。
意味のわからないことをやらされた。
言葉で言い表すのは難しいが、例えるならそれは大根の髭の多いやつと少ないやつを分ける作業みたいなことに似ていた。
意味も解らず女の子はそれを僕にやらした。やらし続けた。
僕は脳の大事な部分を抜き取られたみたいな感覚になって肩から腕にかけてだらりと垂れ下げて途方に暮れた。
女の子はそれでもぼくに指図をやり続けた。
ぼくと女の子が7歳のときだった。
十年後。
ぼくと女の子は偶然、おなじ電車に居合わせた。
女の子はぼくの目の前でハンカチを落とした。
虹色のハンカチだった。
女の子は途中の駅で降りた。
降りたことのない駅だ。
ぼくも降りて、女の子の後を着けた。
女の子は変に暗い美容室へ入っていった。
ぼくは外で待っていた。
女の子が出てくると、腰まであった長い栗色の髪が耳の辺りまで短くなっていた。
女の子はぼくの目を見た。
女の子は無言で無表情でぼくの横を通り過ぎた。
そして振り返り、ぼくに言った。
「どうしたら、いい?わたし」
ぼくは女の子に言った。
「ぼくに、仕事をください」
女の子は言った。
「さっき切ったわたしの髪を奪ってきてそれを1mm単位に切ってそれを一つずつ砂利に貼り付けてそこに火をつけて燃やせ」
ぼくは言うとおりにした。
そしてぼくは脳の人間的な部分をすべて剥ぎ取られた感覚になって肩から腕にかけてだらりと垂れ下げ言った。
「ああ、煉獄の庭」