Spaces

宇宙人はいつも俺を見張っている。
世界の殲滅期にこいつは使えるかどうかを考えている。
宇宙人の舌はちょうど緑色のなめこに似ているが、その大きさは地球の二倍ほどの大きさがある。
だから緑色のなめこが俺を見ているのかなと思ったらそれは宇宙人の舌であったと最近知った。
宇宙人のなめこ状の舌がにょろにょろとよく見えるのは俺の位置から空を見上げたときちょうど宇宙人の口の辺りに来るんだと宇宙人から聞いたが、よく考えたらそれほど大きいのだから地球のどこから見てもあまり見える位置は変わらないのではないかと思い宇宙人にそれを問い質したら宇宙人に「それは地球人の典型的な概念ですよね」と言われて難しいことを言うなぁと俺は思った。
宇宙人は俺がとろろ昆布を食うときに決まっていつも瞬時に「なんだそれは、美味いのか」と訊いてくる。
すべてを知っていると宇宙人は言うが、とろろ昆布だけが唯一宇宙で謎でまだ解明できない存在のようだ。
宇宙人はだから眠りに就くと決まってとろろ昆布の夢を見ると言う。
どこかの星に住んでいる異星人とは違って星に住んでるわけではないので将来とろろ昆布星に住みたいと言っていた。
住む星がないというのはとても退屈で寂しくて、だから宇宙の中でも一番の馬鹿な生物である人間が暮らしている地球をよく観察していると言う。
「すべての人間はだいたい馬鹿だがおまえは賢いから観察している」と言われたが、その前に地球は馬鹿な人間しかいない星だから観察していると言われたので矛盾してるのではないかと問い質したら「それは地球人が妄信している典型的な認知パターンですよね」と言われた。
俺は返す言葉がなくとろろ昆布うどんを食っているとまた「なんだそれは、美味いのか」と訊いてきたがスルーを決めていると緑色のなめこ状の舌が下の方に下がっていき、あっ、目が見えるかな、と思ったら目の二つの位置にも同じ緑色のなめこ状の舌がにょろにょろと動いていた。
よくよく考えたらあれが舌であると思い込んでいただけで、どこの部位であるか本当のところわからない。
「あなたの目を見せてほしい」と俺は宇宙人に言った。
宇宙人はそれを聞いて後ろに下がり三つの舌をにょろにょろと見せた。
すると宇宙人は「だからなんで地球に住む生物と同じように宇宙人を考えるの」と言った。
「だったら目はないのか」と訊くと「あるけどないよ、だって飾りだもん」と応えた。
「じゃあ飾りでいいから目を見してよ」と俺が言うと「だからこのにょろにょろしたやつ三つとも目です」と言われて、ふ~ん!と俺は納得した。
「でも飾りだから、そこから見ているわけではないよ」と言われて言い終わる前に即座に「それはわかってます」と応えた。
三つの目はイソギンチャクの触手のような形になり伸びていって地球を抱きすくめるように地球を取り囲んだように見えた。
「何してるんですかね」と伺うと「別に何もしていません」と言う。
「いや、なんかしてるでしょそれ」と言うと「今、妊娠しているようだから力になりたいと思っているんです」と応える。
「あなたは父親代わりなんですか」と訊くと「そうじゃないけど、もうすぐ産みの苦しみがやってくるから」と言う。
「あなたに、あなたに、何ができるんですか」と言うと宇宙人は触手を引っ込めて左に眼の形に開き瞳孔が月になって右に開いた目の中には太陽が出来た。
その二つの目で俺を見る。
瞬きをして何か考えているようだ。
「あなたは何者なんですか」と訊くと「宇宙人です」と応えた。
「実はわたしの子供を孕ませたんです」と宇宙人は言った。
「そしておまえは育ての親だ」そう言って宇宙人は縮んで透き通っていき俺の腹に宿った。
宇宙人はいつも俺を見張っている。
世界の殲滅期にこいつは使えるかどうかを腹の中で考えている。

関連記事