雲の憂鬱―前編―

その世界は死んだ

謎の言葉を残して



彼は一人の少年に出会った

少年はその謎の鍵を持っていた



彼の脳内に広がる鬱蒼とした草原

手を伸ばせば届きそうなほど

低く垂れ込める雲の下で

怖ろしい顔をした巨大な深海魚に

食べられる夢を毎晩その少年に見せた



「ぼく、あんしんしてもいいの」

食べられそうになる時に

少年の心はいつしか

決まってそう発するようになった


深海魚の口が迫り来る時少年は

決まって振り返って微笑む

少年はどうやらその事態に

安堵を覚えようとしているようだ



その世界が死ぬ前に

彼には確かにこう聞こえた

「クモノユウウツガアカニソマルトキ
         
 フタタビセイトナル」



少年は蜘蛛を飼っていた

魚の餌にするために

蜘蛛を捕まえて飼っているのだ

その魚は夢の中の深海魚に少し似ていた



少年と少し夢の中で話すことが出来た

蜘蛛を手の甲に乗せて微笑みながら少年は話した

「僕が蜘蛛を魚に食べさせるのは

 僕が魚に食べられるためだよ」

「だって蜘蛛は蝶を食べるよ

 僕も魚や動物を食べるよ」

「僕を食べた魚もいつか
  
 食べられてしまうんだ、あの憂鬱な・・・」

そこで少年が目を覚まして続きが聞けなかった


次の日の夜少年は私の夢に出て来た

少年が蜘蛛を飼いだしたのは

母親を亡くした次の日からだとゆう

「お母さんが死んだ次の日

 僕の側には誰もいなかった

 僕が一人で泣いてると

 一匹の蜘蛛が僕の手の上に乗って来たんだ

 そいつだけがずっと僕の側を離れなかった

 ずっと大事に育ててた 

 でもそいつが死んじゃったら僕はまた
 
 一人になる

 だから魚を捕まえてきて、そいつを食べさせたんだ

 あの魚は僕よりも大きくなる

 そして僕はあの魚に食べられる

 そしたら僕は魚に食べられた蜘蛛たちと

 一緒にいられるんだ

 ずっとね

 だってあの魚はいつか、あの憂鬱な雲に・・・」

雷が近くに落ちた音で彼は目を覚まし

また続きを聞き逃してしまった

窓の外を見ると遠く灰色の雲からたくさん光が落ちていた

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