詩の世界

私にはやり残したことがあるのか

それを終えるまで死ねないのか

このまま死ぬわけには、そう言うのは僕ではなく

僕で本来あろうとした僕であるだろうか

何もできなかったが、このまま死んでもいいだろう、そう思うのは

本来あるべき僕から泳いで川を渡り遠い場所で僕が発見し救い出した僕である

その僕は、ただいつも「お父さん、」と呼んでいるのだ

さて、僕はどちらの僕を殺し生きればよいのか

二人同時に生かすなんて無理なんだ

どちらかは死んでしまうのだ

過去の匂ひしかしない西日の中で僕は微笑んでいるか?

あなたはいつでも微笑んでいます、僕の中で

中也の詩に、そういや、時間の流れを一切感じない

本当だ、私の生きる世界とまるで同じだ、この世界は詩だ

誰の詩もそうであるのか?

僕は詩の世界なんぞで生きているやもしれん

詩が作り出す幻覚を皆見ているのかもしれない、私も

ぼんやりとしたものしか感じられなくなった芥川は

これよりも淋しい世界だったのだろうな、と思い

哀しみもせずに、ただそのぼんやりとした世界を

感じようと試みても、外では鴉が啼き車の走る音が聞こえてくるのだった

あぁ、そうだ、私にはもう、すべてがぼんやりとしすぎて不安さえも

ないのだった、嗚呼、それを芥川に話せば、彼は僕のことを

幸せだと言うか不幸だと言うか

死んでしまった人のことばかり想っているのはよくないことなのだろう

だからこんな世界に来てしまったのだろう

いい詩もろくに書けないが、詩の中に生きる詩の人は

詩を書くほうより、つらいものか、書かれてしまっては

もう逃げ場もないか、自分を救いたくて書いてきたものが

詩の中に閉じ込められた僕は泣いているのかもしれない

まるでフィクションのような世界、ああ、そうかそれで

物語のような、とそう言ったか、自分で言って意味わからなかった

物語のような世界で生きているようか

僕の悲しみはおそろしくも完成されている

これは未完成ではないんだ、もうすでに完成されているんだ

どこへもゆけるはずなかった、僕が間違っていた

なんでこんなことを思ってしまうんだろう、君よ

どうか早く帰ってきて、僕の手を強く引っ張ってくれ

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