少年に恋をした


僕が17歳のとき、二人の美少年が上の階に引っ越してきた

その母親がある日僕の家のチャイムを鳴らし

僕の歳や名前を息子が聞きたがっているから

教えてほしいと言われたんだ

どこかで僕を見かけて気になったのだろうか

僕はその時彼らの顔は知らなかったが

回覧板を持って行ったときに

アジア風の本当にびっくりするほどの美少年だった

僕はいつしか、その少年に恋をしていた

高校生くらいの兄と中学生くらいの弟がいたが

二人とも本当に物語から出てきたような美しい少年で

僕が弟のほうに回覧板を渡すと「ありがとうございます」と言われて

なんていい子なのだろうと感激した

兄と弟どっちに恋してるかさえもわからなかった

僕は恥ずかしくてまともに顔も見られなかったが

毎日少年が弾くピアノの音が僕が寝ていると

いつも聞こえてきて、それを聞いているのが

本当に幸せだった、僕はとんでもなく自惚れ馬鹿なので

僕のために弾いているに違いない、とそう思ってドキドキしていた

休みの日にはトランペットの音も聞こえた

まだ練習したばかりなのだろう

へたくそなトランペットだったが、聞いているのが楽しかった

上にそんな少年たちが住んでいると思うだけで

僕は毎日本当に嬉しかった

でも少年たちは僕が20歳の時に引っ越してしまった

僕はその頃本当にしんどくて毎日寝たきり状態だった

その日は兄が飼っていたうさこが死んだ日で

僕は悲しくて起き上がることもできなかった

何度も何度もチャイムが鳴らされたが

ドアノブに品が入った紙袋が下がっていて

彼らが引っ越したすぐ後に僕は

チャイムを何度も鳴らしたが、もう誰もいなかった

一言もお別れを言えずに、もう二度と会うこともないことが

僕を一層悲しませた

そのあとお父さんとお姉ちゃんと奈良に桜を見に行ったが

悲しくて桜どころではなかった

そして僕はそれまで以上に落ち込んでいたので

姉が心配して姉の家に泊まることになった

僕はいつしか少年たちに対する想いが少年Aに対する想いと重なっていたことを知った

僕の少年Aへの5年間の恋は少年たちを失ったと同時に終わったからだ

リアルに何も交わしはしなかったが、僕の中で

あまりに大きくその恋は勝手に膨れ上がってゆきなくてはならないものとなっていた

僕にとって恋はリアルでするものではなく、空想の中でするものだから

それからのリアルでの恋では僕は誰ひとり信じることができない

それは僕の心の中だけで恋する僕をひたすら愛する君ではなく

僕とは違う考えを持ち、僕を時に責め、悲しませて不安にさせる

僕と一体には絶対になれない他人だからだ

空想の恋をリアルの恋は絶対に越えられない

リアルな恋が空想の恋に比べて、僕の深い場所は満たされず

とても味気ないものだとわかっている

でもそんな味気ないものでしかこの淋しさを補えなくなった

僕のこんな気持ちを誰かはわかるかい?

僕は、いつだって君の中にいる僕に恋をしている

そんなナルキッソスのような悲しみを僕はまだ持ち続けている

君と交わりを見せる僕だけを君も愛してくれたらそれでいい

このまま行くと僕はナルシス以外の何者でもなく

泉の淵に突っ伏して最期を遂げるが

現実では水仙の花が一輪とて咲くこともないだろう







拝借した絵画、サルバドール・ダリ「ナルシスの変貌」

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