うつろ夢む春

親の為だけに生きようとした子が親を亡くしたのです

さて、子はそれはそれは悲しみました

永遠にあの春を失ったのです

子の世はすべて過去と成り果て

失ったものだけの世に子はまだ息づいておりました

そんな世にそれでも子は、春を探そうとしたのです

思いもよらぬ場所に、菜の花咲いているやもしれず

なあ、川のせせらぎ音立てて流れているやもしれず

どこや、桜、散る前に今年こそ見にゆけないものか



僕の春や、僕が見つけなくては

父さんもいつもそう言いよった

僕がなんにもないんや、ゆうと

なら見つけなさい、とゆったんや

僕は見つけてみせます、お父さん

春は向こうから来んのです、僕から見つけに行かなくては

そこで、待っていてくれているのでしょう

だからなんべんもなんべんも、僕にそう言ったんですね

隠れとるね、探さんと、見つからん、春

お父さん、見つからんのは、僕や、僕

僕を見つけんといかんな

やっと、また春を見つけた日には

近くの川で一緒にまた小魚を捕り、芹を摘みに行きましょう

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