永訣の夜

今日は父の命日です

あれから六年

私は、その六年という歳月の長さも短さも感じない、時が流れている感覚もない



でもそこにあったものは



ある時は、ただそれはそこにあってじっとその場から少しも動かない大きな石のようであった

ある時は、ただそれはふわふわと柔らかな風に流されるだけの小さく光る綿毛のようであった

ある時は、ただそれはざざ降りの冷たな雨にずっと打たれている死んだ小鳥のようであった

ある時は、ただそれは遠い遠い水平線にゆらゆら浮かぶ霞んだ幻の蜃気楼のようであった

ある時は、ただそれは知らない列車を一人薄暗いプラットフォームで待つ人のようであった

ある時は、ただそれは淡い夕雲のすきまから線を引いてきた飛行機雲の行方のようであった

ある時は、ただそれは失くした夢を求めて咲いて儚く枯れた小さな白花の少女のようであった

ある時は、ただそれは月のない晩に一人で寒い外で遊んでいる冷たい手の子供のようであった





六年の月日の間、それはただ願うことをやめなかった

再会して絶対に伝えなければいけないことがある

本当の本当に心から心からお父さんのことが好きで好きで大好きでずっとずっとずっと傍にいたかった





永訣の夜に、私はすべてを失くした

そして今までのすべてを受け取った

見えていたのに見ないふりをしていたもの、私はすべてを初めて与えられた

お父さんを失った後にすべてを与えられたのだから

それを殺してはいけない

私は私の中にあるそれを守り生き抜こう

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