貝男

貝の汁は真珠の汁、乳白の汁、美味い汁。

白子。







「僕はやっと見つけたんですよ、その貝をね」

冬は寒いから、海入られへんやろ。

そうかもしれん。

けれどね、きっとあいつは、そや、物珍しいもんが好きでねぇ。

まだ冬ちゃうかったわぁ、てゆうてね、何食うても胃がもたれるんですよ。

せやから、その貝を?

そう、探してたんです、僕は。

もう秋ですね、秋でもやっぱり海は寒いね、冷たい。がしかし、その海でしか獲られん貝でね、珍しそうな貝。

珍しいかどうなのかよくわからない貝かい?

そう、その通りや、ようわかったね、でもその貝の汁さえ飲めばたちまちにしてもう死ぬまで胃がもたれる苦しみを味わう苦しみを味わうこととは縁が切れるという言伝えがある。
命を賭けて、探した。見つけ出した暁にはもうその貝と真珠湾に心中しようと思った。
胃がもたれることのない幸せの中死のうと思ったんや。

てことは、あれですか、あなたは死にたくてその貝を探しに行った、とこないなわけですか。

違う、それは、違う、断じて、僕はね、いつしか恋をしてたんやなあ、あの貝に。だって、よく考えてみたらねぇ、僕のこの苦しみから救い出してくれる神様みたいなもんや、それは、神様を愛する、それって極自然なことだと、そない君は思わないかね。

はあ・・・・・まあ、それで、どないなったんですかい。

僕は貝と心中した、真珠湾、行ってきた。

っていや、生きてるよ、きみ。

僕はその貝の汁を飲んだ、それで。

それで?

うまかった。

飲んでそれからどうしたんです。

その貝の汁、飲み干してきた、貝殻をほったんや、真珠湾はぬるかった、海は乳白になってね全部が貝の汁になった、僕はそれを全部飲み干してきた、そして胃が満タンになりすぎて僕の体は破裂した、その中を僕と貝は泳いだ、楽しかった、なんや楽しすぎてカイジュウになってん、貝汁ってゆう海獣に。そしてこの地上で僕と同じように胃が持たれて苦しんでいる生き物たちのためにこの貝の汁でできた海の水をみんなに飲ましてやろうと思ったのよ、海を地上の隅々までいきわたるようにしたんや、そしたら全員死んでもうた。僕はそれから貝の中で閉じこもって生活をした。貝の中では胃がもたれる苦しみからは解放されたが、それ以外のものはすべて苦しみとなった。どれくらいそこで暮らしていたのかわからない。たぶん5世紀半くらい経ってると思う。ある日僕は貝の隙間から光の漏れるのを見て、閉じていた貝を開けてみたんや。僕の体は完全貝になっていた、僕はある男の口の中へと入って行った、男が僕を食うたんや、そして僕は男の心臓まで這っていって心臓を食って僕が心臓みたいなことになった、すると、どうでしょう、男の口から発せられる言葉はすべて僕が発する言葉となった。

ということは、つまりということは?つまり。

そう、君が見ている僕ってのは、実は貝なんだ、貝の僕としゃべってるんだよ。あ、君、僕の子供たちがそこの浅瀬でたくさん生活しているから、どうかな、もし胃がもたれて悩んでいるようなら貝を食べたまえよ。













ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ。
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