阿呆、そんなん愛ちゃうねんあほ、ゆうとくけど、おまえは誰も愛してないよ、だから生きてくんだよわかるか、俺からおまえにゆうよ、おまえは誰も愛すな、ええな、今日の存在をおまえは死ねばいい。明日の存在は明日の存在が生きてくれるよ。
宮島へまた行って、もみじまんじゅう買ってきたい。
もみじまんじゅう買って来たい。
十八年前のそこに帰れば、あなたはまだ、そこにいる。
部屋で、あの部屋で一人で寝るのは怖かったんだ、だからここで寝ている、毛布にくるまり、ごたごたしているここ荷物が多い、荷物がたくさん積み重なっていて、この絵いらないな、ゴミに出そう。夜、隣の部屋から出てきた男はおっさんだと思っていたが、意外と若い、三十代後半か。でこは少し禿げ上がっているようだが、気にならないんだ。何故なら、私は彼に会いたかった。一人は恐ろしい部屋だった。何も知らない廃墟のような土地、何も知らない職場、汚い工場、荷物でごたごたの部屋、寒い色の寝室、だから私は、もう一人の住人、すなわち、同居人、ルームメイト、それは男と知って、しかもおっさんかと一目見たときは、そう思って、嫌だった、怖かった、こんなところで暮らしていかなければならない運命を私は呪ったのだ。でも相手の発した言葉は私の知らない言葉だらけだった。彼は夜中に起きて眠る振りをする私の横を通り過ぎて、洗濯物をしに行った。
この絵、捨てようと思ってたんだけど、捨てちゃいけなかったのかな
新しい住居人私は、古い住居人の男にたずねた。
ここにあるものを勝手に捨てちゃいけないよ、みんな意味があってここにあるんだよ
私、この絵の何かを好きになったの。昨日にはそれがわからなかった。ああ、捨てなくて良かった
それは一人の男の肖像画、自画像であるような絵。目と鼻と口、それらは輪郭の内部で歪みきっていて。
他の絵がここにある
彼が見せたその絵、ピカソのような絵だなと私は思う。薄い青い線で描いた意味の分からないものたち。
これは、自由の象徴
彼は絵にあるひとつびとつの塊をさして、言う。
これは、奴隷
これは、愛を失った後の人の形
これは、女性器、これは、男性器
これは、夢の隙間、みたいなもの
彼は、頭が禿げ上がっている見た目本当に冴えない男、なのに、なんて彼の口から毀れる言葉は美しいだろうか!
私は、彼に、そう彼を愛するようになる。
はずだった。
彼はある日、ゆうんだ、この私に。
君は、聖所(せいしょ)へ向かうといい、君はそこへ行かなくてはならない、何故なら、ここは、ここは、異常者の住む町だからだ。セイシンショウガイシャ、とも言える。みなは俺らのことを、ガイジと、言う。その町に、君は来たんだ、最高権力者の力によって、ここへ連れてこられた。でも君は、ここにいちゃいけない、だから今すぐ、君は聖所へ向かうといい
聖所の場所なんて、わからないよ、君は違う、君は私が邪魔になったんだ、そうだろう?そうに決まってるさ、だから追い出したいのさ、この部屋からね。ここを出て私が暮らせる場所なんて、ないのに、それを君は知っているはずだ、でも、私はここを出る
何も無い場所へ、私は向かう、それを君は見送ってくれ
さらば、光のあった日々よ!