かなり大きくて広い家に住んでいる。
洋館であった。
何人かで一緒に住んでいる、中でも仲の良いと思われる二人は、中学生時の友だち、そして何故か芥川賞作家の円城塔氏であったが、まあ顔が似てるだけで別人かもしれない。
いろいろわけがあってここに暮らしているという風であったが、ある日、それは突如起こる。
私はドアを開けて外に出ようと思ったら、ドアの外に誰かいる気配がする。
気持ち悪い、誰だろう。
私は覗き穴から外を窺う。
すると明らかに怪しい人物がこちらを見ている。
よく銀行強盗をする人たちがこぞって気に入り被る帽子、あれは目出し帽というのだが、あれをかぶっているのであるが、その色が真っ赤な目出し帽であって、気持ちが悪い人物である。
それではあまりに目立ち過ぎるのである。
その男はこのドアを何かで破壊せしめて室内に入り込むのが目的という感じで何かを操作している、銃のようなものか、それとも爆発物を取り付けているのか。
私はどくどくと打つ鼓動の中で一瞬にして思い浮かんだことを実践する。
私は震える声でドアの向こう側にいる男に向かって叫んだ。
「警察を呼びました!」何故敬語なのかと自分で思いながらも何度も叫ぶ。
すると表の男はそれに驚いて応える。
「本当か、本当に呼んだのか、クソっ」とか言いながら慌ててならば仕方ないという風にその場を去る。
しかし男は一度は去ったが必ずまたやってくる、それも極短い時間の間にだ。
その時私たちの命はないだろう、それを確信していた、のは、そう、これはその時がやって来てしまったからであり、いつ来るか、来るか、と怯えていた時が起き始めた、そう私は恐怖に慄き、青褪めた顔で部屋にいるであろう仲間にそれを知らせた。
彼女はそれを知り、震えながらも冷静に、しかし信じられないという顔で即ここを逃げ出す準備に取り掛かった。
私はもう一人の仲間にもそれを知らせた。
彼は妻と子と離れここで暮らしている男だったが、彼は仲間である私たちよりも当然妻と子の身を真っ先に案じ慌てて準備をし出した。
普通、そういう事態なら警察に連絡すれば良いがしかし、それは無駄なことであった。
私が先程確かに警察を呼んだと言えば男は逃げた、しかし彼らは警察の一部と繋がっている組織であり、彼が逃げた後にそれがわかったので、今はもう誰の助けも呼ぶことさえできないのである。
それがどのような事態であるか、あなたはもうおわかりであろう。
ついに現代の日本に、前代未聞の恐ろしい戦争が起きたのである。
それをこの目で実際見たのは、その数分後である。
穏やかな、しかし寂しげでもある農園の中にこの洋館は建っていて、緊迫しながら私は窓の外を見た。
枯れた田畑が広がっていて、その奥にはビニールハウス式の小屋も建っているようなのどかな冬の風景である。
しかしその光景はいつも私たちが見ていたものではなかった。
私の目が見たものは、確かに現実であった。
あなたは「夜と霧」というナチスによる強制収容所で行われていたことのドキュメンタリィ映画を見たことがあるだろうか。
ちょうどあれがこの現実に起きた実際のことであるのと同じに、その私の目の前の光景もまた現実であった。
その広い風景の中の何箇所かでそれは行われていただろう。
私が見たのはその一つであって、私は最初奇妙な感覚でそれを見ていた。
何故奇妙な感覚だったのか、それは今の日本にこのようなことが本当に起きるとは思えないという気持から、私は奇妙な物事を私は見ているという感覚に落ちながらその一部始終を見ていた。
彼らは、次から次へと並ばされていた、皆は白装束を着せられ並ばされてそして座らされる、膝をついて手は後ろで縛られそして顔は、顔も白い袋を被らされており異様で気味の悪い格好をさせられて順番に座らされている、彼らは皆おとなしい、何が今から始まるのかまったくわかっていないのだろう、彼らはとても従順である。
彼らを並ばせてそして座らせる男たちも数人彼らの後ろに立っていて、それまで私も静かな気持でなんだろうと思って見ている中、一番前に座らされ前屈みになるように男は押さえられている、その左に立っていた男が突然長い柄の鎌を男の頭の部分に振り下ろした。
瞬間に男の首からこれが飛んで頭が落ちて座らされていた男には頭がなかった。
見ていた私の体は震え上がった。はい、次、はい、次、という形で何か黙々と行う流れ作業のような事務的な仕事のよう(システマティック)に、次に並ばされていた男の頭が次には切り落とされるのである。
次、その次の何番目かの人間は私ではないのか、そう思った私は絶望して、部屋中探して見つけた彼女に震える声で「あ、あ、あ、頭、頭がき、切り落とされてた・・・・」と言って、こうしちゃいられない、一刻を争う、私もここを出る準備に取り掛かりだす、しかしそれより先に兄と姉たちに連絡をしてこれを知らせて早く安全な場所へ避難してほしい、そう思うが気が焦りすぎてテンパり過ぎてもう自分で何をやっているのかわからない、部屋をうろうろうろうろして、そしてはっと部屋中見回すと、彼女も彼もいてない、シーンと静まった広い屋敷に私は一人残されていたのであった。
つまり仲間と思っていた彼も彼女も私に一言も告げることはなく我先よとこの屋敷から避難したのである。
ものすごい恐怖であった、一緒に避難できると思っていたのであったから少しは心強かったのが、この絶望と恐怖で恐ろしい世と一変した地に私一人残されたのである。
しかしそうやっていつまでも絶望したまま突っ立っていられない、私は逃げられうる場所を探し出した、まず頭を打ち落としていた場所の方角からは逃げられない、ドアのところからも無理である、私は今にも恐ろしい組織の男たちに窓から侵入されて殺されるのではないか、覗いた窓にはもうそこに男たちが鎌を持って居るのではないかと戦慄しながら赤茶色のカーテンをそっと引いて外を見たら黒い柵の中は長い雑草たちでよく見えない、向こうの方に抜けられる道が覗いている、ここだ!ここからなら見つからず逃げられるかもしれない!そう思い立った私はばたばたばたと階段を駆け上がり、今自分が何故だかズボンを履いておらずレッグウォーマーとパンツ姿であったので、いくらなんでもこの姿で外に行きたくないと二階の洋服ダンスから自分のジーンズを急いでハンガーから外しながら、ボタンをつけていてなかなかすぐに外れてくれない、こんなことなら丁寧にボタンをかけてハンガーに吊るすんじゃなかったと心底後悔した。
そしてその次には私の愛する家族のみちた君である、みちたはもうすでにキャリィバッグに入っていた、そして大切なもの、かばんにいくらかもう詰め込んである、その鞄がやけに重たい、要らないもの、いらないものと焦る手で探す、大切にしていた、CD、本、それらをすべて鞄から出した、こんなもんより命が一番大事や、そう思いながらすべて出して、こんなことしている間に殺されるのではないかと恐れ、みちたの餌も詰めて、ああでも水が、水がないわ・・・・と思いながら、もう出る!はよ出ないかん!と私はもうつんのめりながら足がからまりながら、うわあーと走ってさっきの安全だと踏んでおいた窓から身を乗り出して屋敷を出た。
そして、世界は広かった、外の世界は、眩しかった、この方角の後ろでは人が無残に物のように殺されていってるのに、こっちの方角はなんて平和なように見えるのか、まだこっちの人たちは知らないのだろうか、とにかく私は私の目に映った良いと見える方へ走った。
街路樹が光ったように見える公園のような場所がある道に向かって私は走ったのである。
何も知らない場所、行き交う何も知らない人たち、美しく見えた、私には、普段はそんな風に見えることはなかったはずである。
何も知らずにのほほんと暮らす人々と場所は穢れて見えたのではありませんか、しかし絶望な場所から脱出できた私にはそれはそれは美しい景色に見えた。
助かる、助かる、殺されずにすむのだ、私は、私は、私は、殺されたくない。
神よ。
神よ。
神よ!
殺されて行く人たちと私は何が違うのか。
彼らは、殺され続けている。
- 関連記事
-
-
僕からの〖人類への警告〗 2022/12/17
-
来世、食肉の家畜になっても…? 2015/10/31
-
「にんげんっていいな」 2015/10/28
-
食べ物があるのに飢えるのはなぜ? 2015/09/26
-
「僕たちは世界を変えることができない。でも、僕たちは世界を変えたい。」 2015/02/18
-
盲目の牛 2015/01/17
-
「いのちの食べかた」 森 達也 2015/01/13
-
肉を食べなくなったいきさつ 2014/06/12
-
食肉と飢餓 2012/03/08
-
荒れ果てた罪 2012/01/27
-