ある神社を探していた
その神社の神様は珍しい子供の神様だという
子供だからわがままで気まぐれだそうだ
神社は山奥にあるらしく覚悟はしていたが本当に迷ってしまった
昼下がりの森でいろんな鳥の声を聞きながら少し重くなりかけた足を進めていると
少し先に二人の子供の姿が見えた
私は咄嗟に走り出し子供達に近付き声をかけた
振り向いた二人の顔にはお面が付いていた
夜店にあるような子供の面だが、何十年も前から使っているような風合いのあるものだった
「こんなところで何をしているの?」
そう声をかけた私に鳥の面をかぶった子供のほうが答えた
「抜け道を探してる」
この子達も迷っているのではないかと思い、聞こうとする前に、もう一人の
猿の面をかぶった子供が「早くしないと入れないよ」と言い、二人は
私を置いて風のように走って行った
猿の面をかぶった子供が「早くしないと入れないよ」と言い、二人は
私を置いて風のように走って行った
私はとにかく後を追った。疲れを知らない子供達は猫のように身軽な体で私との幅を広めてゆく
どれほど走っているのだろう
辺りは日も暮れ終わり夕闇が降りて来ようとしていた
辺りは日も暮れ終わり夕闇が降りて来ようとしていた
走っているうちに何故だか体が自分のものではない感覚になっている
ふわりふわりと勝手に体が走ってくれているような
気付くと私は眠っていた 走りながら意識が飛んでしまったのかも知れない
目が覚めると横たわった私は漆黒の闇に囲まれていた
静寂の一つであるかのような虫の音や鳥の声が響いている
恐ろしいほど満ちてゆくような閑寂に闇の奥をただぼんやり見ていると、
月灯りでだんだん森の中が透け出して来る
月灯りでだんだん森の中が透け出して来る
視界が広がると同時に何かが聞こえてくる
何人かが歌を歌っているような声だ
私は体を起こし、その奇妙な声のほうへと歩き出した
深い茂みをかき分けて声の居場所を探す、だんだんと声が大きくなってくる
ようやく近づき木の陰からそっと覗いてみると
そこには少し広く空けられた草むらの上に仄暗い小さな火をくべたものを
円の周りにいくつか置いた中で子供達が輪になって回っていて
その真ん中に一人後ろを向いた子供が座っていた
回っている子供達は楽しそうに歌っている
みんな今日出会った二人の子供のような面をつけていた、あの子たちもこの中にいるのだろうか
何故こんな場所でこんな時間に子供達が遊んでいるのだろう
その時突然私が隠れている木の上から大きな黒い鳥が大きな羽ばたく音をたてて飛び立った
私が驚いて頭上を見て、また子供たちの場所を向き直ると
子供たちが全員こっちを顔を向けて止まっていた
まるで敵に見つかってしまい硬直している小動物のようにぴくりとも動かない
咄嗟の何か危うい事態に思え、どうしようか、と私は焦り考えていると
子供達は一斉にざわざわとこちらをちらちらと見ながらひそひそと話しだした
そしてざわめきがぴたりと止まったかと思うと、一人の子供が少し前に出て言った
「そこにいると危ないよ」
何が危ないのだろう、そう思った瞬間背筋の凍るような声が聞こえた
低く唸る声、一匹ではない、何匹ものその声の主は恐ろしく
今にも咬み付いてきそうな飢えた野犬の声だった
私はその途端腰を抜かしてしまったようだ、動こうにも動けない
怖くて目も開けられず震え上がる体を丸めて座っているしかなかった
すると急に体が持ち上げられた
その瞬間恐ろしさを忘れ、昔、父が炬燵で寝てしまった私を
布団まで抱き上げて連れてってくれたことを何故か思い出した
その時と同じように誰かが私を抱き上げて歩いているようだった
それが誰なのかはわからないが、ずっとこのままでいてほしいと思える確かな安心だった
意識が遠のいてゆく、とても心地が良く、それなのに寂しい、寂しい、……さみ……しい……
またあの歌が聞こえている、賑やかに踊りながら歌う、祭囃子のようだ、笛と太鼓の音も聞こえる
私の周りをみんなが回り踊っている、私が鬼なのだ、いつのまにか目隠しをされていた
自分の体も見えないのに私の体は今、子供の私だ、そう何故かわかるのだった
とても楽しいのに、私はいつの間にか泣いていた、子供のように声をしゃくり上げて泣いていた
そっと目隠しの後ろの結びをほどかれた、私は後ろを振り向いた
そこには白い狐のお面を付けた大人が私を見ていた
私には、それが誰なのかわかっていた
その人は私に優しい手を差し出した
私にとってこの世界で一番優しい手を差し延べるその人は
その人が誰であるか、私は、ずっとずっと会いたい人だった
ずっとずっと、私と会わなくてはならない人だった
ずっとずっとこのまま終わりには出来ない夢なのだ、これは
終わらせるわけにはどうしてもいかない夢なんだ……
祭囃子が遠くなってゆく
ああ、また消えてしまうのか……
目が覚めると私は神社の境内の上に寝転がっていた
いつのまにか朝になっていた、眩しい光が大きな木の葉の影に柔和されている
すぐ側に古い木で出来た小さな鳥居があり、その奥にはこじんまりとした小さな社があった
社に近付くと、神殿の中に何かが置かれているのが見えた
それは、お面だった、そういや「そこにいると危ないよ」と
私に言った子供のお面に似ているなと思った
このお話は新居昭乃のOMATSURIという曲からインスピレーションを受けて書きました。
新居昭乃の中の大好きな曲の一つです。
これを聴くといつも不思議で切ない世界へと連れてってくれるのです。
新居昭乃の中の大好きな曲の一つです。
これを聴くといつも不思議で切ない世界へと連れてってくれるのです。
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