子供は自我さえ芽生える前に孤独と悲哀が染み付き、それがなんであるのかわからないまま成長して行った
子供はいつからか自分がいる世界とみんながいる世界が何か違うものではないかと違和感を持つようになった
母親がどんなものであるのか子供は知らなかった
母親の写真を見てこの人が母親かと思うだけで、もう二度と帰っては来ない母親に何も求める意味はなかった
子供は無意識のさなか何かを自分の中だけで確立させようとしているようだった
子供の中には最初何もなかった
何もなかったから空虚感と一番離れたものだった
そんな満たされた空白は突然のようにも徐々に少しづつも変化して行った
ある日母親が家にいなくなった
子供は母親を探さなかった
幼い脳がそれがなんなのかはっきりとわかっているようだった
今まで何もしなくても無償で自分に絶大な何かで微笑みかけてくれる時に叱ってくれる゛なくてはならないもの゛が突然いなくなってしまった
子供はそれでも受け入れるしかなかった
子供はそれから内部にある世界で生きるようになった
子供の中にあるそれは光と影が幾度となく生まれだしてはすぐに消えることをただ繰り返すようになった
まるでそれは満ちて行ったものを絶対に留めさせない為の、死というものを何度も何度も体験したいが為に繰り返しているように思えた
満ち足りないものは生で
満ち足りたものは死
ただそれだけのことで
母親のすべては満ち足りたから死んだのだと、その考えに満ちるとまたその考えは殺した
すべては満ちてゆくために
すべては満ち足りないために
すべてはないために
すべてはあるために
子供はそんなものを生み出して殺しては、絶対的な゛なくてはならないもの゛に想いを馳せ静かな寝息をたててひとりで眠りについた
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