鴉と鵠
河原の土手でカラスが鳴いていた。あほみたいな声で鳴いていた。僕の声はそのカラスに届かなかった。なにしてんの、って僕はゆうたのに。届かんかった、僕の声、街灯の明かりだけ僕とカラスを照らしてた。ほんとはね、ほんとはね、ボク、コウノトリになりたかってん。そうカラスが僕にゆうてきた。僕だってそうさ、僕はそうカラスにゆうた。虫喰って生きていきたいよ、そう鳴いてカラスは飛んでった。127年前かな、僕にもそんな思い出がある。だから生きていけるんだ。僕は一人ぼっちじゃない、そう思えるんだ。夢ではいつも難しいこと考えてるなあ。僕じゃないみたい。最近よくなんか心臓が止まりかけるけど僕へこたれない。君のマジックが僕を色のない世界へ導くまで。次は大正って戻ってるやん。次は大生や。ふと、部屋を見回してみるとみんな小さく見えた、ミニチュアのドールハウスみたいや。心は大きいから、心は宇宙より大きくなるよ、最近指がむくんでて、指毛がほやほや生えてるな。そん中で僕の肉体がなんやうなだれてるで、おっかしいなあ、おもしろお、あはははははっ、見てるのは誰?僕を見てる僕は誰?僕か。君が状態、僕、振動だよ。空に向かって歩いてゆけよ。いいから、なんも心配すんな、ええから、僕の振動が君に届けば良い。延滞してもええねん、必ず返す日やってくる。ものごっついな、アースっちゅうもんは、僕たちありんこ、ありんこは体が三頭身、実は僕たちも、三つに分かれてる、松竹梅、ほんとうは松も竹も梅も同等だ、梅干ころん、ご覧、君の心臓だ、それが竹林の坂道を転げ落ちてった、すると大きな松ノ木にぶつかって、そして僕らは生まれたんだ、だから同等だ、どれひとつ欠けても僕らは生まれなかった、生まれてこれなかった、生まれてこなきゃよかった。種無し坊やでも気にするこたあない、コウノトリが梅干食って種落とす。これ誰の羽根?金の羽根、銀の羽根、あなたが落としたのどっちやねん。コウノトリは答えた。はい、わたくしめが落としたのは銀の羽根っす。カラスが答えた。アー、カアカア、金かなアー。沼の神は言った。ぬまぬまぬま、そういや、今日わし、蒸し風呂で金と銀の羽根つこて、捨てたんやったわ、ないわ、もう。それを聴いたコウノトリとカラスはガーンとなった。そしてお手手をつないで帰ろうとしたそのとき、沼神が引き止めた。おまえら、よう見たら光の加減で金や銀に見えるやんけ、たぶんわしのおかげとちゃうか。コウノトリとカラスはそれを聴いて天高く飛び立っていってしまった。沼神はとたんにさみしいくなったので、ゆわんかったらよかったなあと思って沼に沈んでいったとさ。これが古代7208年前から代々伝わる伝説じゃ。まあわししかおぼえてへんねんけどな。