兄弟契り

「ごめんね、また電話してしまって、すごく寂しいさっびしいくってェしゃあなかったんにゃ、パトカー三台ぐらいのごっつい音のサイレンで目が覚めたあの不穏な目覚めからずっと怖いっちゅうのか孤独の摩天楼ちゅうのか、おとろしいてなァ、つい電話してもうたわ、ところで大阪ではクッツクをヒッツクちゅうんやけど、われはどこのもんや、この世の者ではない、なるほどな、どおりでエコーかかってるわけやね、僕はねとにかく不穏な世界に生まれてきたようだ、だから恐れていられないんだ、うつりかわる地獄っちゅうのはまさにここのことや、真面目な話酒が飲みたいな、明日死んだらどう思うわけ、君は、だあーと流れてくれないのか、心が表れる言葉が自分の中にあったら、誰よりおのれを愛してしまった彼は誰より不幸で、僕はその不幸に呼びかけたんだ、兵隊さん、と呼びかけた、彼は振り向いて言った、俺の延命がこの世界である以上おまえが死んでれ、ら?と僕ゆうた、ら、ちゃう死んでれんや、とこないゆうんや、わしは気になったんでこう返ひた、ほな貴方は盲目の海ですか、とゆうとおまえこないゆうよるんよ、下手したら中央階段は行き止まりでわやや、明日にしたらどうですかと僕ゆえばァ、知床ケツまではまってくれるなら、とゆうて男は浴衣の裾をまくり上げてふんどしげつをぷりぷりいわして走り去っていきょった、かんどうできだったのはそのことではなくそのことを今きみに話している僕チン自身に向けて感動の刃刺さっとおるんや、本当に終わらない話がここにある、それは青い熊のようになでだかだんだ、ギル兵衛は言った、まむしの背骨と俺の顎ちょっと似とるやろ、見てみィこのここ尖がっとるやろ、まああっちはまむしの背骨がどうなってるか知らんねんけどな、あれはなんであんなにあんなんなんやろ、俺が朝起きるとな、利休の黒茶碗の中に小さい白蛇がまあるく入っとってなァ、そこにそのまま茶ァと水入れて茶筅でわしゃしゃしゃしゃしゃしゃと混ぜて飲んだら世界が暗黒城になった、わしの天下じゃ、叫ぶと瞳孔開いた奥にその白蛇住んどってな、わしにこないゆうんじゃ、無が生(しょう)になり生の都が血桜じゃ黄桜の弁酒をわたくしに吞ませてもらえませんか、じゃからわしは酒を目ェで吞んでやった、すると全身に黄色い鱗(こけ)が生えてのォ死んだ振りしてから浅草まで相撲の張り手の格好後ろ向きで歩いてった、くすぶりあった灰と灰その中に負傷した人その人こそ二十七年前に生き別れた空國王その人やった、死んでなかってんのォ、生きとったらエエこともあるもんやのォ、わいはそのパックリザックリ開いた左肩の傷口に目ェから吐いた白蛇を頭から突っ込んで尾の先を食いちぎった、食い千切った尾は兄弟契りの証として喰うた、ほんで気をはあっきりさせた空國王が俺にゆうた、おまえ目ェから血ィ出とんやんけ、どないすんね、俺は朦朧のボウとなりゆうた、だって契りたかったァ毛細血管のその筒はどれくらいの薄い皮なんやろう、空國王はゆうた、心配せんでも喰うもんないさかい、毛細血管でもなんでも揚げて練りカラシつけて喰うてこまそ、そやな、せやね、金海老のしゃちほこが空に春風にゆうらりと動き蠢き腐っていた。了」
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