モヤシ太郎

4週間コバエのうじゃうじゃ沸いていた生ごみはベランダでどうなってんねやろか、怖いわ。もうどうせ殺されんねなら、自分で火ィつけて燃やしたろか、ベランダで焼き物したらだめなんかな、ライターで火ィ点けたろか、もう全部燃えてまえ、燃えてまえばええねん、なにもかも、失うまで、燃えて、燃えてゆく、生ごみが、オレの、俺の生ごみが、あとダンボールもベランダにあるからあれも燃やしたろう、モヤシ太郎がそこから生まれたよ、その子を育てよう、ベランダで。ええ天気やなあ、こんな日はモヤシ太郎を散歩に連れてゆくべきだ、来い、モヤシ太郎、モヤシ太郎は歩くのがごっつ遅い、なんしてんねん、はよ歩かんかあ、はよ来い、モヤシ太郎は無言で着いて来る、モヤシ太郎は産まれてきたことが不満らしい、この世に生を受ける以上のものが自分にあるはずなのに生まれて来てしまったことが悲しく絶望している、モヤシ太郎は無言で冬の青空を見上げる、俺はそんなモヤシ太郎が不憫でそこに捨てて帰った。一時間後、ベランダの窓をモヤシ太郎はノックしていた、なんや、帰ってきたんかおまえ、モヤシ太郎は無言で自分に付いた大豆に乗ってくるくる踊っていた。

ベランダでごみを燃やすのはやっぱりやめよう。
俺はモヤシ太郎を育てる自信がない。
まだ、その自信が、俺にはない。
ああ、そんな自信が、俺にあったらなあ。
目をつぶって蛆の湧いたごみを捨てにゆこう。
大量殺戮が行われる今日はすがすがしい良いお天気だ。
関連記事