僕の一日。朝6時、明るくなる前に布団に入って寝る。そのまま午前0時まで眠り続ける。起きて静かな部屋で朝食と一緒に酒を体内に流し込む。その後およそ4時間はかけて文章を連ねる。酒を飲みながら推敲に40分から2時間かけ(それでも誤字脱字が多いのは酒が入ってるからだ)て朝の6時には就寝する。これはいい暮らしだ。これを死ぬまで続けてやろう。一日一食一日酒一升瓶分。食費を減らすことで安い酒がたらふく飲めることだ。
君は気付いちゃいないのかい、なら僕が教えてやる。
人を傷つけることはどういうことかってね。
ああそうさ、みんな自己を傷つけている。
賢い人は気付いてくるはずだ、誰かを傷つけることは自傷行為以外の何ものでもないってね。
だから君が地獄に落ちて当然さ。
何故なら僕は君のおかげで今、地獄にいるからだ。
君も神の恵みを授かり地獄に堕ちなければこれは神の法ではない。
この星の支配者の恩恵はすべての者に公平に降り注がれなくてはならない。
僕たちだけ救われるなんていい気がしないからね。
皆公平に、地獄を味わうがいい。
彼らの地獄を。
家畜たちの地獄を。
僕は怖くなって臭くて汚い布団に潜り込んだ。
そうさ僕ら、いつか彼らの地獄を味わうんだ。
今に、そう、今に。
なんて恐ろしいのだろう。
彼らはまだそれを知らずに肉を食い続けている。
僕は淡い色の電球を見上げていた。
気付くと昨日の男が僕の側に立っていた。
「何を恐れている」
僕は寝ながら応えた。
「あのような地獄がみんなの上に待ち受けていると思うと僕は恐ろしくてならないのです」
「恐れることがあろうか?おまえを含め大概の人間達がこの世の公平を望んでいるではないか」
「みな口先ばかりでそれがどのような意味を成しているのかわかっていないのです」
「無知な人間達のことを考えてきりがあるか、ただ知らない者は知るときがまだ訪れていないだけだ、おまえが嘆いてどうなることでない」
「悲しむことは愚かなのでしょうか、僕は今地獄にある者たちと、これから地獄を味わう者たちのことを考えると悲しくてならないのです」
「おまえは愚かであるし、また愚かではない、人が行く道はおよそ決まっている。おまえはまた悲しむかもしれないが、俺は今夜恐ろしい話を告げにここへやってきた」
「それはどんなお話でしょう」
「この世界の未来の話だ、それも近い未来の」
「僕はそんな話しは聴きたくない」
「俺がおまえを苦しめるためにここへやってきたと思ってはならない。俺はおまえを救いに来たんだ。どうしてもこの話をさせてもらいたい」
「では、話半分に聴かせて貰いましょう」
「ははは、いい心構えだ。今から何年後に起きるかは言わない、数年後とだけ言っておこう。まず、今までも恐れられてきたことが世界中の国でほぼ同時発生する。すべての家畜が新種のウィルスによって伝染病にかかる、これは驚異的な速さで人に伝染し、やがて死へ追いやる。この新種の伝染病は予防法も見つからなければ治療法も見当たらない、お手上げというわけだ、人々は次々にかかって死んでゆく、仕方なく世界中の国ですべての家畜、家畜の小屋や処理場を燃やし尽くす。肉の生産はできなくなり全世界に大不況がやってくる。国は皆他国への食料の輸出をやめる、先進国の中で一番自給率の少ない国であるこの日本がどのような状態になるかわかるか、まず食糧不足より先に大不況がやってきて今以上の多くの企業が倒産する、倒産は免れた企業も少ない給与で賄って行くしかなくなる、そうしている間に多くの富者はいち早く食料を何十年分と買い込み蓄えにする、食料の不足はすぐにやってくる、穀物、野菜、豆類は今までの10倍以上の値で売られ給与も減った人間に買える額ではなくなってくる、国内の富豪以外の家は二日に一食、いや三日に一食食えたらいいほうだ、やがて自殺者が増えていく、餓死者よりも自殺者がまず増えてくる、飢餓の苦しみに耐え切れずに絶望して自殺する者が多いからだ、その年は自殺者は25万人、餓死者は6万人だ、次の年は、自殺者は68万人、餓死者は13万人だ、倍の数以上に増えて行ってるのがわかるか、次の年には自殺者は156万人、一日に4274人の自殺者だ、餓死者は29万人、ここに来て、やっと悪魔に魂を売ろうとするものが出てくる、何のことかわかるか」
「わからない」
「もう少し考えてみろ」
「人を、食べる・・・・・・?」
「そうだ、そもそも発端はただの殺人だったかもしれないが、一人が殺した人間の死肉を食い漁る、それは家畜の伝染病よりも恐ろしい、ものすごい速さで日本中に伝染したように人の肉を食いたがる人間達がうじゃうじゃと出てくる、あとはもう地獄絵図そのものだ、皆がみなそろって餓えているからだ、正気も理性もなくし、食欲か、いや、生きようとする本能か、生物が生きようとすることが、どういうことか、少しはわかるだろう、それは美しいことなんかではない、心では絶望しながら、肉体を生かすために仲間を貪り食う、それが人間の本来の姿、一体俺たちとそこはどこが違うのか、人肉を喰う者は恐ろしいと言っていた人間も同じことをするんだ、この日本は数年後には鬼だらけの国となる、そしておまえも、その地獄の中に自殺しようと思い定める、だからこうして俺が助けてやろうと言ってやってるんだ。まだこの話には続きがある。頑なに自国を守るため日本への輸出をしてこなかった国のいくつもが、突然支援という形で食料を輸出し出す。何を輸出してくれたのか?その善良な国たちは、それは穀物でも野菜でも果物でも豆類でもない、肉だ。おかしいと思うだろう、新種のウィルスを死滅させる情報は入ってきてないのに突然それは見つかったといって、大量の牛肉を贈ってきたんだ。しかし日本中は歓んだ、思考力さえ奪われるほど日本中が餓えていた、人々は嬉しそうにその肉に貪りついた、幼い子供から年寄りまで皆がみな美味いと言って食い漁った。それが何の肉か知らずに。今このときでも唱えている人は数人いるようだ、人の目に見えない世界的な戦争がもう既に始まっている、とね。おまえは信じたくないだろうが、今既に売られている数が少ないだけで同じようなことが行われている。新しい戦争の仕方だ。古い目に見える戦争のやり方の時代は終わった。新しい21世紀の戦争の幕がもうとっくに開けられているんだ。俺は怖がらせようとしてこれを言っていない。十二分に注意しろという忠告だ。21世紀の戦争で人々の理性を奪い正気から狂気へゆるやかに動かす方法はひとつではない、ありとあらゆる方法が蜘蛛の巣以上の複雑さで絡み合っている。その中の一つが肉食だ。俺が言うのもおかしな話だが、そこは目を閉じて笑いを噛み締めて聞いてくれ、肉食で人が凶暴化するとは言わない、しかし肉食を続けることで人が鈍感化することはどうやら起こっている、鈍感になるとは、理性と正気から離れてしまうってことだ、もっと言えば、他者の痛みに鈍感になる、他者の痛みに鈍感になるということは自分とまた自分の愛する者さえ良ければそれでいいと考えるようになるということだ、つまり利己的な部分が前に出てくるわけだ、だから全世界を征服しようと企んでいる世界一巨大な組織の者たちが肉を贈ってきたわけだが。ふう、俺が人間にこれを話すのも本当に馬鹿げているが、これも何かの因果なのか、その暗黒組織のやってること、日々行い続けている慣わしはよく俺たちと似ている、彼らは悪魔に魂を売った者たち共だ、つまり、毎晩、赤子の生き血を飲み、その死肉を食らい続けるという儀式を行い続けている黒魔術を操る悪魔崇拝の信者達だ、そいつらが自国の食料もままならないのに肉を送ってくるとはどういうことかおまえも薄々感づいているようだ、おまえが今想像しているナチスの強制収容所で行われていた光景、それがこの国の将来、行われるということだ、彼らが送ってきたのは牛肉ではなかった、牛肉と偽られた、人肉だ。気分が悪いなら少し時間を置こう。俺も馬鹿馬鹿しさで笑いを抑えるのが大変だ、まあそいつらは人間というより悪魔に近い存在だろうがな。ひと月に一人人間を殺して死肉を喰らいつづけてきた俺が言えることではないが。まあ聴いてくれ。それらはいったい誰の人肉か、単純だ、この世に不必要とされた人間達、全世界の犯罪を犯した人間達の死肉だ、それを日本中の人間が喰わされる、これはもしかたら家畜に新種のウィルスを投じることから始まった大仰な計画だったかもな、お前は昔ハムスターを飼っていたことがあるな、思い出してみろ、共喰いをしたやつがその後どうなったかを、すぐに死んでしまっただろう、原因不明の死だ、鳥類、哺乳類、人間になってくるほど遺伝子が近い生物の肉を食うことで狂ってしまうようだ、生が死になる瞬間に仲間の生き血をたらふく飲まされた死体は吸血鬼になるしかないようにね、この日本は終りだ、あと数年でな、生きてる者は貪欲に殺し合い、喰い合う未来があと数年で訪れる。悲しいか、恐ろしいか?でもこうなることは決まっていた。未来を変えることはできない。おまえが数年後に自殺する未来もだ。おまえが俺に泣き縋りついてくるとは思っていなかったが、もうほんの少しは、俺を希望としてもいいんじゃないか、確かに都合のいい救いとは大違いだ、お前は吸血鬼になればおまえの理性が緩むといえ、ひと月に死肉を一度は喰わなければその渇望には耐えられなくなるし、そうして何千年生きたところで最後には消滅して塵さえ残らなくなるのだからな、しかし吸血鬼になれば太陽以外は無敵のようなもんだ、化け物並みに力も付くし、暗黒組織も爬虫類人間も目じゃない、いつか訪れるかもしれないどこかの星の異星人だって降伏させられるかもしれん、ま、お前は無敵など望んでいないようだが。俺と一緒に来ないか」
「何故昨日は帰ってしまったの」
「おまえにはなんでも正直に話してやろう、昨夜は俺の気持ちが少し揺れ動いたからだ、しかしこの国の未来を思うと、やはりお前は俺に着いて来たほうがいいのではないかとね、考えはまたすぐに元に戻った」
「僕はあなたの言ったことを信じない」
「どれのことだ、俺の言ったすべてか」
「よく、わからない、悪いことをだよ、僕は悪いことは信じないんだ」
「何が悪いことか、おまえにはわかるというのか」
「それはわからないよ、けれど、僕はそんなこと起きて欲しくないんだ」
「未来の話か、気持ちはわかるが、このまま行くとこの未来は確実だよ」
「未来を変えられないなんて嘘だ」
「俺は嘘つきで構わないが、では変えられるというのなら、どうやって変えることができるか、おまえに想像することができるか。未来は誰が用意したものか?神か、悪魔か、それとも、自分達か、もし自分達で用意したと言い切るのなら、自分達で変える事ができるはずだ、おまえはそれをやっていけるか、今までのように利己的に生きていて変えられるのか、何一つ犠牲を払わずして変えることができると思うのか。ふう、今日の俺はどうも変だな、よく考えると俺が言える筋合いではないな、感情的になってしまった、すまない、いったいどこにこんな腐った感情があったのだろう」
「僕は少し目を瞑って考えたい」
「ああ、そうするがいい」
僕は目を瞑った。気付けば僕はこの国の未来の地に立っていた。そこらじゅうに人の屍骸が転がっている。赤子から年寄りまで皆服をちぎられて体中食い荒らされた跡がある。僕は恐怖に震え上がり、腰が抜けて血溜りの上にしゃがみ込んだ。血の溜りに僕の顔が映った。僕は気付くと血溜りの中に顔を突っ込んで声も出ないのに謝り続けていた。飢えがあるようだった。心で何度も謝り続けながら僕は食料を必死に探した。死体を踏みつけ、血のぬめりですべって転び血だらけになりながら涎を垂らして探し回った。人だ!いたぞ、僕の食べ物、走って走ってやっと追いついた。後姿の人が突っ立っている。僕はその人間の肩に手をかけた。その人間はゆっくりと振り返った。振り返った人間は無表情の僕だった。
目が覚めると彼の姿は消えていた。
窓が開け放たれている。夜は冷たい空気で僕という食料を冷凍したがっているように僕を冷やした。