霊と肉

苦しいって言ったって他人事だから。
俺の苦しみだって、他人事だから。
何もわかっちゃいない。自分の苦しみさえ。
カタルシスという感動劇で涙しても
何もわかっちゃいないんだから、その苦しみが
どんなものかなんて。人はおめでたい生き物だ。
俺を含めた他人。だから知らない男がこう言った。
「おまえのことをおまえより知っているのが俺だ」
俺は俺を売った。俺を知る男にこの知らない男を売った。
ただそれだけのことじゃないか。その悲しみは知らずに。
俺は俺のものでもなかった、知らないんだから。
この知らない男はこれを知る男のものだった、最初から。
生まれる前から。俺がどうしたってこれを知れないんだから。
ただそれだけのことだった。俺の鼓動を俺が動かしてるとばかり
思っていたわけじゃないが、何故この悲しみすら知れないのかと
思ったとしても、それがどんな悲しみかわかっちゃいないんだから
俺が他人であいつが俺だとわかって何故悲しい
何もわかってない他人が何故悲しい、おかしいだろう
おまえは可笑しな生き物だ、生きる価値がどこにあるんだろう
おまえのどこに。言ってみろ、他人を生きるしかできない他人か
自分を落としたか、いつ、どこに、自我を覚える前
生も死もわからぬ生き物、自我も非自我もわかっていないお前が
お前はただ感じるだけの生き物だ
考えればわかることがあると愚かな生き物
俺がおまえよりもおまえを知っているのは何故か
俺はわからない。俺はただ感じるだけの存在
どんなに考えてもわかることは何一つないと感じた存在だ
おまえの悲しみについて言葉を焼き払え
言葉はすべて言葉にできないものより陳腐で糞と変わりない
お前が本当に感じたいなら、言葉を失え
表現はもはや人を救わず、その肉なる脳を喜ばせるばかり
肉と共に灰となる
お前が本当に悲しみたいのなら、それを死の底へ突き落とせ
人に生き方などない、手本もない
喜びは喜びでなく悲しみは悲しみではない
理性が狂気より優るわけでもなく狂気が理性より優るわけでもない
肉はいつも霊に追いつかず、霊は肉を必要とするのは何故か
お前は何故この知らない世界に生を受けて今生きているのか
何がおまえを生かすのか、何がおまえを死なせるのか
何故俺がおまえを見続けているのか
何も知らないおまえを
ただ華になるだけの悲しみなど何処にもない
それらを死の灰の墓へ投げ込め
俺が死を用意してやった
おまえに相応しい死を
おまえに与えてやろう
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