誰ですか?あ、おたく、間違えてますよ。僕にそんな知り合いはいません。
いいですか?僕は鵜獲堕孤逗餌という三十二歳のおっさんです。
俺の先祖は鵜を捕獲しようとしたところ沼の主に怒られて沼の底地よりも深い場所まで堕獄させられたんす、で、孤立に至りました、当然のことと云えたでしょう、するとそこに逗と言う人間がやってきました、逗は俺の先祖に言いました。
「餌だ、これがあんた食いたいのなら、わたしのいう問題を解いてみよ」
それはこんな問題でした。
あるところに鮒が二魚浮いていました。それは死んだはずの鮒でした。
それを観た若者が言いました。
「船出した」
それを聞いた男は言った。
「え?おまえいつ、船出したんよ、俺、聞いてなかったよ、ひどいんじゃねえの?俺、おまえに餌、持ってきてん、食いたいなら応えろよ」
若者は応えた。
「いつもなにも、今です、旦那さん、僕は船出したんですよ、見なさい、鮒が二魚浮いているでしょう、あれ、死んだはずの鮒でね・・・・・・」
男は言った。
「え?俺に御前は見えてるよ?そこには確かに鮒が二魚浮いている、しかし御前のいる場所が俺のいる場所と違うようには見えません、ですから御前が船出したと言うのなら、俺さえも船出したということにしてしまいたい、その鮒はどうせ腐ってしもてて喰えないのだから、御前の餌をではどうすると言えよう、俺は探しに行くこともできるぞ」
若者は言った。
「それは死んだはずやということにしたのは誰ですか、僕は餌の在り処なんて知ってる、迷惑と言ういかずちがあなたの頭上で骨を鳴らしていることも虚しき音よ、この鮒の知る声があなた飲めるなら僕の輪廻に筋を引くが、飲めないならただの鮒腐乱の沼の藻があなたの足首に絡まるついて離しとうないと叫んでいる、僕はいっそのこと、船出した」
男は言った。
「確かに俺だ、でも俺は御前の喜ぶ顔見たくて、あえて臭い餌捕まえてきてた、よ、なぁ、俺の頭蓋が欠けてもまだ聴こえるくらいの耳が俺には必要やったので、あの鮒を死んだことにしておいた、腐り行く鮒寿司のにおいの嗚咽、それはつまりオエッツ、と言いながらすることで悲しみを回帰させることとして蘇えらせるためやった、俺はどうしても御前を嗚咽させたかった、その沼が全体御前を欲しがってるのがわかるよ、こんな藻なぁ、俺の足の肉喰わせたるわ、背中から鴉が飛び出したと思えばそれは鵜やった、何故闇の化身が俺から飛び出したのか?御前の仕事は鵜飼いで鮒を獲って得意の鮒寿司売り捌くことやった、その御前の飼ってた鵜の中に俺の鵜が紛れ込んでその鵜が捕まえた鮒はこの世のものではなかった、俺は餌を探してた、御前だけの餌だ、その鮒寿司な、御前を戻させるものでもないし、行かせるものでもない、ただその鮒が御前の事呼んどるんや、餌や、御前が食べる餌」
若者は言った。
「巨大な鵜が捕まえてきた鮒の裂いた腹の中は冷たかったからそこに沼を全部押し込めたんや、僕はそこに入るほど鮒を愛してなかってん、僕はもう何処にもいられない、僕は僕がいられる場所を全部失った、僕は、僕は、愛することの出来なかった鮒でした、僕を覗いてるのは巨大な鵜、あなたという鵜、真っ黒なあなたの差し出す餌を、僕は食べましょう、僕は鮒でして、本当の餌を、僕は頂きます」